【膵臓がんに期待】ナノマイシンを使ったがんの長期飢餓療法とは?

濱元誠栄院長

こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。

先日、こんなニュースがありました。

ただ、本文を読んでも全く意味が理解できず。。。

書いている記者自身もよく分かっていないから、こんな書き方になるのでしょう。

発表された研究論文をAIの力を使って探し出し、読んでみてやっとその技術の内容が分かりました。

以下、まとめてみました。

がん治療には様々な方法がありますが、「兵糧攻め(飢餓療法)」という戦略があります。

がん細胞も、私たちが生きていくために栄養が必要なのと同じように、特定の栄養素を大量に消費して増殖していきます。逆に言えば、その栄養(ごはん)を断ってしまえば、がんは増殖できなくなります。 これが「飢餓療法」(兵糧攻め)の基本的な考え方です。

今回の研究では、がん細胞の増殖に必要な「L-アスパラギン」という栄養素(アミノ酸の一種)に着目しました。

この兵糧攻めには使われる「アスパラギナーゼ」というお薬(酵素)は、ある種の血液がん(急性リンパ性白血病など)には劇的な効果があり、すでに「標準治療薬」として使われています。

しかし、不思議なことに、膵臓がんや乳がんといった「固形がん」に対しては、これまで単体ではほとんど効果がありませんでした。

「なぜ、血液がんには効くのに、固形がんには効かないのか?」 「固形がんにも効くようになれば、治療の選択肢が大きく広がるのではないか?」

長年、研究者たちが挑んできたこの大きな”壁”。 このたび、この壁を打ち破る可能性のある、画期的な技術を日本の研究チームが開発した、というエキサイティングなニュースが飛び込んできました。(2025年10月31日、Nature Biomedical Engineering誌に掲載)

今日は、「なぜこの薬は固形がんに効かなかったのか」という背景と、「今回の新技術がどれほど画期的なのか」を、合わせて解説していきます。


【なぜ効かない? 固形がんが持つ「2つの鉄壁」】

血液がんに有効な「アスパラギナーゼ」が、膵臓がんなどの固形がんに効かなかったのには、大きく2つの理由(鉄壁)がありました。

理由1:がん細胞が「自給自足」してしまう

これが最も根本的な理由です。

  • 血液がん(白血病など): 多くの場合、栄養である「アスパラギン」を自分(細胞内)で作れません。そのため、血液中に流れているアスパラギンを「外から取り込む」しかありません。 → だから、薬で「外」のアスパラギンを枯渇させると、兵糧攻めが成功します。
  • 多くの固形がん: 自分自身でアスパラギンを作り出す能力(アスパラギン合成酵素)を持っています。 → たとえ「外」(血液中)のアスパラギンが枯渇しても、細胞内で「自給自足」できるため、まったくダメージを受けません。

理由2:薬剤が「すぐに消える」「奥まで届かない」

仮に、「自給自足」が苦手なタイプの固形がん(※実は膵臓がんなどはこれに当たります)があったとしても、従来の「アスパラギナーゼ」というお薬(酵素)自体に2つの弱点がありました。

  1. 弱点① すぐに「異物」として排除される この薬(酵素)はタンパク質なので、注射するとすぐに体の免疫システムから「異物だ!」と攻撃され、分解・排出されてしまいます。その「寿命(半減期)」は非常に短く、がんを兵糧攻めにするのに十分な時間、血液中にとどまれませんでした。
  2. 弱点② がんの「固いバリア」に阻まれる 固形がんは、細胞が密集した「塊」です。特に膵臓がんは、がん細胞の周りを「間質(かんしつ)」と呼ばれる非常に固いバリア組織が取り囲んでいます。 → そのため、お薬がバリアに阻まれ、がんの塊の「中心部」まで浸透していくことができませんでした。

【これまでのまとめ】 固形がんに「アスパラギナーゼ」が効かなかった理由

  1. がん自身が「自給自足」するから
  2. 薬が「すぐ分解される」「バリアで届かない」という、まさに鉄壁の守りがあったから

【新技術が「2つの鉄壁」を打ち破る!】

今回の日本の研究チームが開発した新技術は、上記【理由2】の「薬剤の弱点」を、真正面から克服するものでした。

その名は「ナノマシン(ナノ医療)」技術です。 「アスパラギナーゼ(兵糧攻めの武器)」を、「ナノ(10億分の1メートル)」という超・微小なカプセルに詰め込みました。

そして、このカプセルの「表面」にこそ、今回の最大のイノベーションがあります。

解決策1:100時間隠れ続ける「超・透明マント」

免疫から「異物」として攻撃されないよう、ナノマシンの表面をコーティングする技術を「ステルス技術(透明マント)」と呼びます。

従来は「PEG」という素材が主流でしたが、それでも数時間~数十時間が限界でした。

しかし、今回開発された「イオンペアネットワーク」という新しい素材で作った透明マントは、なんと100時間以上も免疫から隠れ続け、血液の中を循環できることを証明しました。

これにより、弱点①「すぐに分解される」を完璧に克服し、長期間にわたって、がんの周囲の栄養(アスパラギン)を枯渇させ続けることが可能になったのです。

解決策2:がんの「バリア」を内側から崩す

ここが、今回の研究成果の最もエキサイティングな点です。

「100時間」という圧倒的な持続時間で兵糧攻めを続けた結果、驚くべきことが起こりました。 栄養不足に陥った結果、なんと膵臓がんを守っていた【理由2】の弱点②「固いバリア(間質)」が、柔らかく崩れ始めたのです。

これは、治療において「二重のメリット」を生み出します。

  1. 兵糧攻めの効果が、がんの奥深くまで届くようになる。
  2. バリアが崩れることで、他の薬も効きやすくなる。

実際に、この新しいナノマシンと、免疫療法薬(抗PD-1抗体)を併用した動物実験では、治療効果が劇的に改善したことが報告されています。 バリアが崩れたことで、免疫療法薬ががんの中心部までしっかり浸透できるようになったのです。


【まとめ】

今回のニュースの「すごさ」を、もう一度整理します。

  1. 「アスパラギナーゼ」という古くからある薬の弱点(すぐ消える・届かない)を、日本の先端ナノ技術(超・長持ち透明マント)で克服しました。
  2. これにより、「自給自足」が苦手なタイプの固形がん(膵臓がんなど)を、初めて「兵糧攻め」にできる道筋ができました。
  3. さらに、兵糧攻めの結果、がんの「固いバリア」まで崩すことができ、「免疫療法」など他の治療薬も効きやすくするという、一石二鳥の効果が期待できます。

もちろん、これはまだ動物実験の段階であり、すぐに人間の治療に応用できるわけではありません。 しかし、これまで「効かない」とされてきた固形がんに対する治療戦略を、根本から変える可能性を秘めた、非常に重要な一歩です。

「薬が効かない」理由を徹底的に分析し、それを「技術」で乗り越えていく。こうした日本の研究者たちの素晴らしい成果に、一人の医療者として大きな勇気をもらいました。 今後の研究の進展に、強く期待したいと思います。

この薬剤の臨床試験が始まったら、公式ブログですぐにでもお知らせしたいと思います! 楽しみにお待ちください!

濱元誠栄院長

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この記事を書いた人

1976年宮古島市生まれ。宮古島市立久松中学から鹿児島県のラ・サール高校に進学。鹿児島大学医学部を経て沖縄県立中部病院で研修医として勤務。杏林大学で外科の最先端医療を学んだのち再び沖縄県立中部病院、沖縄県立宮古病院、宮古徳洲会病院に外科医として勤務。2011年9月に上京しRDクリニックで再生医療に従事した後に、18年7月にがん遺伝子治療を専門とする銀座みやこクリニックを開院。

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