乳がん治療2024年最新治療~乳房温存術/乳房全摘術/ホルモン療法/抗がん剤/分子標的薬/ラジオ波焼灼術/凍結療法/HIFU

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濱元誠栄院長

こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。

今回は乳がん治療を理解しようというテーマでお話させていただきます。

前半は乳がんの診断と分類方法について、後半は最新の治療法と今後期待される治療法について解説していきます。

ホルモンが陽性か陰性か、HER2が陽性か陰性かで4つに分類されます。昨年からHER2低発現という新しいカテゴリーができて、今までトリプルネガティブと言われていた方に、HER2の治療ができるようになりました。​

HER2はがんの増殖にかかわるので、HER2の発現が多いほど増殖しやすく予後が悪いです。​

HER2はスコア化されており、従来陰性とされていたものの中に、低発現が定義されました。​

ホルモン陽性乳がんをルミナルと表現し、増殖速度でAとBに分けます。HER2陽性であれば、ルミナルHER2と言います。​

乳がんでKi67は必ず調べます。Ki67はルミナルタイプを分けるのに利用したり、治療方針を決めるのに参考になります。​

同じホルモン陽性のルミナルタイプでも、増殖が速いルミナルBの場合には抗がん剤治療を併用することがあります。HER2陽性であれば、抗HER2薬を併用します。​

乳がんの確定診断方法は、主に針生検で行われます。​

針生検はコアニードル生検ともいわれ、エコーで見ながら太い針で組織を採取します。​

しこりを作らないタイプの乳がんで石灰化だけが見られる場合には、マンモグラフィで石灰化を見ながら針生検を行います。この時の針はコアニードルよりも太いです。​

針生検でこれらのことが分かります。​

組織型は大きく分けると浸潤がんか非浸潤がんですが、浸潤がんの中でも最も多い乳管がん以外に特殊型というのもあります。また、乳頭や乳輪から発生するパジェット病という特殊なタイプもあります。​

がんの顔つきを表す悪性度は、治療方針には直接影響しませんが、予後の予測に使われます。​

ひとえにホルモン陽性と言っても、受容体の陽性率で効果に多少の差異があります。陽性率が低いとホルモン療法の効果が若干弱いと考えられています。​

穿刺吸引細胞診という方法があります。局所麻酔も不要で簡単に採取することができますが、悪性かどうかくらいしか分からず、診断がつかないこともああります。​

針生検でも診断がつかないときに、外科的に切除して調べる方法もありますが、行われることはほとんどありません。​

乳がんのステージは、しこりの大きさとリンパ節の場所によって決まります。しこりが2㎝以下でリンパ節転移がない場合はステージ1で、5年生存率は98%となっています。転移があればステージ4となり、5年生存率は40%近くまで低下します。​

九州大学のデータですが、乳がんはステージ1で見つかる方が最もい多いです。ただ、2㎝以下のしこりは自覚症状がほとんどなく、触診でも触れにくいので、がん検診などで発見される機会が多いです。​

ステージ分類をする際に、しこりの大きさや広がり具合で4段階に分けます。​

ステージ分類する際のリンパ節転移の場所も、3つに分けられます。​

遠隔転移は骨への転移が最も多く、脳や肺への転移も多くみられます。​

非浸潤がんの場合は、広がり具合に関係なくステージ0となります。ステージ0は乳管の中だけで広がり、原則的に転移することはないと言われています。​

ステージ0の治療方針は基本的には手術です。部分切除した場合には放射線治療が行われます。ホルモン治療が追加されることはあまりありません。​

ステージ0は予後はよいのですが、乳管を伝って広範囲に広がっていることがあり、全摘になることが多いです。​

顔つきが良いタイプのステージ0乳がんで、手術せずにホルモン治療だけで治療する臨床試験が行われています。将来的には手術しなくて良いとなるかもしれません。​

ステージ1‐3Aは基本的に手術ですが、最近では抗がん剤などの薬物療法を先行するケースが増えています。​

皮膚や胸壁に浸潤しているステージ3Bや、鎖骨上リンパ節転移がある3Cなどは手術で取り切れないので、薬物療法を先行します。​

ステージ4の場合にも基本的に手術は行わず、薬物療法のみとなります。場合によっては放射線治療を加えることもあります。原発の乳がんを切除した方が、出血などを減らせて生活の質は上がりますが、予後には関係がないとされています。​

乳がんの手術は、大きく分けて乳房を全摘するか、部分切除して温存するかです。​

それぞれメリットとデメリットがあります。乳腺を残したくて温存手術を行っても、人によっては変形したり左右差が大きくなって、満足度が下がることがあります。​

温存手術は、ステージ0‐2と比較的ステージが低い人が適応となります。​

昔は、大胸筋なども含めて切除するハルステッド手術という大手術が行われていましたが、合併症が多い割には予後が変わらないので現在は行われなくなりました。最近では、乳房再建しやすいように、乳頭や乳輪を温存する手術も普及しています。​

術前に明らかなリンパ節転移が見られない場合には、手術中にセンチネルリンパ節生検を行います。​

センチネルリンパ節に転移がない、もしくはわずかな転移しか見られなかった場合には、脇のリンパ節切除を省略することが可能です。​

乳房温存術を行った場合には、乳房内での再発を防ぐために、放射線治療が行われます。最近は照射量を増やして照射回数を減らす、寡分割照射という方法がとられることが増えてきました。切除した箇所に追加照射、ブースト照射を行うこともあります。​

温存術後に放射線治療を行うことで、乳房内の再発率を1/3に減らすことができます。​

乳房温存術後の放射線治療の照射範囲です。​

リンパ節転移が多い場合には、手術で切除しても再発するリスクが高いため、全摘術後でも放射線治療が行われます。​

外国では乳がん切除後に半数以上が乳房再建手術を行うのに対して、日本では13%ほどしか行われません。それには様々な理由があるのですが、詳しくはアメーバブログ等で説明しているので、ぜひご覧ください。​

自分の組織、時価組織を使って行う再建に、腹部の皮膚と脂肪、筋肉を移植する方法があります。​

もう一つ、背中の筋肉と皮膚を使う方法があります。​

インプラントによる再建は、術後にエキスパンダーと呼ばれる拡張器を使ってゆっくりと皮膚を伸ばし、最終的にインプラントと入れ替えます。​

それぞれ、メリットとデメリットがあります。​

乳がんの治療薬についてお話しします。閉経前でのみ使われるのが、LH-RHアゴニストという注射薬です。脳に働きかけ、卵巣から乳がんのエサになるエストロゲンを分泌しないようにし、閉経状態にします。​

抗エストロゲン薬は、エサであるエストロゲンを乳がん細胞が取り込まないようブロックします。代表的な薬剤にタモキシフェンがあります。​

もう一つのホルモン治療薬に、アロマターゼ阻害薬があります。閉経後は卵巣からエストロゲンが作られず、副腎からの男性ホルモンがエストロゲンに変換され、がんのエサになります。この変換をブロックするのがアロマターゼ阻害薬です。閉経後の乳がんにしか適応がありません。​

代表的な抗がん剤は2種類あり、そのうちの一つがアンスラサイクリン系です。名前は難しいですが、2つの薬剤しかありません。シクロフォスファミドと併用し、AC療法やEC療法と言われます。​

もう一つがタキサン系です。3つの薬剤があり、ドセタキセルはTC療法として使われます。​

術後の再発予防に、内服の抗がん剤が使われることがあります。そのほか、三次治療以降でハラヴェンやナベルビン、ジェムザールなどが使われます。​

HER2陽性の場合は、これらの薬剤が使われます。一時治療で用いられるハーセプチン+パージェタを組み合わせたフェスゴ皮下注射が最近登場しました。​

抗HER2薬であるハーセプチンは、HER2タンパクを標的とした薬剤で、分子標的薬と言います。​

ハーセプチンと抗がん剤を合体させたのが、二次治療以降で使われるカドサイラとエンハーツです。​

抗HER2薬以外の分子標的薬に、CDK阻害薬とmTOR阻害薬があります。これらはホルモン治療薬と併用で使われます。​

BRCAという遺伝子の異常が見られる場合には、リムパーザなどの分子標的薬が使われます。消化器がんなどでよく用いられるアバスチンは適応となっていますが、使われることは少ないです。​

トリプルネガティブ乳がんでは免疫チェックポイント阻害薬が抗がん剤と併用で使われます。​

術前に抗がん剤治療を行っても術後に行っても予後は変わらないと言われています。しかし、しこりが大きかったり皮膚に浸潤していたりする場合には、抗がん剤で小さくして手術を行うことがあります。また、しこりを小さくして温存手術を行う場合もあります。​

術前の抗がん剤治療は高い確率で奏功し、中には完全にがんが消失してしまうことがあります。その場合でも手術は行いますが、再発率が大幅に低下します。​

ルミナルタイプ、いわゆるホルモン陽性乳がんの術前術後の治療方針です。手術先行の場合は、再発リスクによって術後にホルモン療法を行うか、抗がん剤治療を行うか決まります。抗がん剤治療の後はホルモン療法+αが行われますが、ちょっと複雑です。​

オンコタイプDxという検査で、再発リスクを数値化し、ホルモン療法だけでよいのか抗がん剤治療も加えた方が良いのか判断する材料にします。​

再発リスクが高い人だと抗がん剤治療を行うメリットが大きいですが、再発リスクが低い人に抗がん剤治療を行っても再発リスクはわずかに低下するだけです。かえって副作用の方が大きく出てしまい、メリットはありません。​

術前にホルモン療法がおこなわれることはあまりないですが、閉経前で顔つきが良い乳がんの場合には、術前に抗がん剤ではなく、ホルモン治療が行われることもあります。​

ホルモン陽性乳がんの手術後は、再発予防のためにホルモン治療が行われます。閉経前の場合は、LH-RHアゴニストとタモキシフェンを併用します。再発リスクによっては抗がん剤を併用します。​

閉経後の場合はアロマターゼ阻害薬が主に使われます。こちらも再発リスクが高い場合には、分子標的薬や抗がん剤を併用します。​

術前の抗がん剤治療のメニューです。HER2陰性と陽性で異なります。​

この中では、AC/ECが最も弱く副作用が少ないです。TCの方が効果は高く、AC/ECからドセタキセルへの移行、AC/ECを間隔を詰めて行うドーズデンス法にする方がより効果は高いですが、副作用も強いです。再発リスクや全身状態で薬剤を選択します。​

術後の抗がん剤治療は、術前と同じメニューが使われます。​

HER2陽性の乳がんの場合は、ハーセプチンが必須となります。リスクによってはパージェタが加わります。手術先行の場合にも薬物療法先行の場合にも、抗がん剤の併用は必須です。​

トリプルネガティブ乳がんの乳がんの術前術後の治療方針はかなり複雑です。アメーバブログ等で解説していますので、ぜひそちらもご覧ください。​

トリプルネガティブの場合は、免疫チェックポイント阻害薬であるキイトルーダやプラチナ系のカルボプラチンを併用します。​

トリプルネガティブ乳がんの場合は、術後に内服の抗がん剤ゼローダを使うことがあります。術前にキイトルーダを使っていれば、術後にキイトルーダ単体を投与します。​

ステージ4乳がんの治療方針についてお話しします。​

脳や肺、肝臓など命にかかわるような内臓に転移がない場合にはホルモン治療が行われます。命にかかわるような転移がある場合には、はじめから抗がん剤治療が行われます。​

閉経前の場合には、LH-RHアゴニストが必須となります。

詳しく知りたい方は、銀座みやこクリニックのアメーバブログで解説しておりますので、ぜひご覧ください。

閉経後はアロマターゼ阻害薬が中心となります。こちらも詳細はブログ等をご覧ください。​

HER2陽性乳がんの場合には、一時治療はハーセプチン、二次治療以降はカドサイラやエンハーツが用いられます。カドサイラとエンハーツは抗がん剤と併用しません。​

トリプルネガティブ乳がんの場合には、PD-L1陽性か陰性かで薬剤が異なります。PD-L1が陰性の場合は、アンスラサイクリン系とタキサン系を中心に抗がん剤治療を行い、BRCA陽性であれば、リムパーザやターゼナが維持療法として入ります。​

PD-L1が陽性の場合には、キイトルーダやテセントリクといった免疫チェックポイント阻害薬が使われます。免疫チェックポイント阻害薬と併用する抗がん剤はタキサン系かカルボプラチンとなっています。​

最後に乳がんの局所治療について。ラジオ波の高熱でがん組織を死滅させる、ラジオ波焼灼術が昨年保険適応になりました。初期の乳がんのみが適応となります。​

ラジオ波の熱とは対照的に、マイナス170℃に凍らせてがんを死滅させる凍結療法があります。こちらも初期の乳がんのみが適応となります。​

ハイフと呼ばれる超音波を収束させて熱エネルギーでがんを死滅させる治療法がありますが、現在では行っている施設はなさそうです。​

重粒子線や陽子線と言った粒子線治療も切らずに治療できますが、乳がんには保険適応となっていません。自費で行う場合には約300万円かかります。​

放射線を放出する物質を温存術後の乳腺内に挿入し、術後の放射線治療を短期間で済ませるという方法があります。限られた医療機関でしか行われていません。​

次は乳がんの新治療について。ホルモン陽性HER2陰性乳がんやトリプルネガティブ乳がんの中に、HER2低発現の乳がんとカテゴライズされる人がいます。その人は二次治療でエンハーツを使うことができます。​

今年の3月に、PIK3CA、AKT1、PTEN遺伝子に変異のあるホルモン陽性乳がんで、AKT阻害薬であるトルカプが承認されました。これらの遺伝子変異は、遺伝子パネル検査でしか調べることができないので、ハードルが高い方が多いと思います

トリプルネガティブ乳がんの治療薬で、海外では何年も前から承認されている抗Trop2抗体薬物複合体トロヴェルディという薬剤があります。日本でもやっと申請され、現在承認待ちの状態です。​

同じく、抗Trop2抗体薬物複合体の新薬も、トリプルネガティブ乳がんで申請され、承認待ちです。​

HER2低発現よりもさらにスコアが低い、超低発現でもエンハーツが有効という報告がありました。将来的には超低発現という新しいカテゴリーができるかもしれません。​

最後に、乳がんは毎年のように新薬が承認されており、現在出版されている「乳癌治療ガイドライン2022年版」や「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版」ではすでに古い情報となっています。

一般の人が最新治療について調べるのはかなり難しいと思いますが、2024年6月時点ではこの動画が最新の情報だと思います。じっくり見て、自身の治療に役立てて欲しいともいます。

医師任せではなく、きちんと勉強して自身の治療方針に納得して治療を進めて欲しいと思います。​

濱元誠栄院長

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この記事を書いた人

1976年宮古島市生まれ。宮古島市立久松中学から鹿児島県のラ・サール高校に進学。鹿児島大学医学部を経て沖縄県立中部病院で研修医として勤務。杏林大学で外科の最先端医療を学んだのち再び沖縄県立中部病院、沖縄県立宮古病院、宮古徳洲会病院に外科医として勤務。2011年9月に上京しRDクリニックで再生医療に従事した後に、18年7月にがん遺伝子治療を専門とする銀座みやこクリニックを開院。

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