
抗がん剤を使わないと長生き?最新データが示す「経過観察」という新戦略
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濱元誠栄院長こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
「手術でがんを取った後は、再発を防ぐために抗がん剤を頑張るのが当たり前」
「辛い治療に耐えることが、長生きへの一番の近道だ」
がん治療において、このように考えている患者さんやご家族は非常に多いと思います。 しかし今、その「当たり前」を覆すような衝撃的なデータが医学界で話題になっています。
それは、手術後に抗がん剤をやらないグループの方が、結果的に長生きだったという驚きの事実です。
今回は、このデータの根拠となった臨床試験「JCOG0603」の結果を紐解きながら、なぜそのような逆転現象が起きたのか、分かりやすく解説します。
常識を覆した臨床試験「JCOG0603」とは?
このデータは、「大腸がんが肝臓に転移し、それを手術で取りきった患者さん」を対象に行われた大規模な比較試験(JCOG0603)から導き出されました。
研究では、患者さんを以下の2つのグループに分けて、その後の経過を7年間にわたって追跡しました。
- グループA(経過観察): 手術後は抗がん剤を使わず、定期検査だけで様子を見る。
- グループB(術後化学療法): 再発を防ぐために、手術後すぐに強力な抗がん剤(mFOLFOX6)を使用する。
これまでの医学の常識では、「目に見えないがん細胞が残っているかもしれないから、念のために抗がん剤で叩いておく(グループB)」が正解だと信じられてきました。
私たち医師も、その方が患者さんのためになると信じて推奨してきました。
しかし、結果は予想外のものでした。
「再発は減った」のに「寿命は延びなかった」
まず、5年後の「再発率」を見てみましょう。
- 経過観察グループ: 再発しやすい
- 抗がん剤グループ: 再発が抑えられている
ここは予想通りです。抗がん剤を使ったほうが、がんの再発そのものは防げていました。
ところが、最も重要な「7年後の生存率(どれだけ長生きできたか)」を見ると、事態は逆転します。
- 経過観察グループ(72.4%)
- 抗がん剤グループ(69.4%)
なんと、抗がん剤を使わなかったグループの方が、生存率が高かった(長生きしていた)のです。
「再発は防げたのに、命は守れなかった」
良かれと思って追加した治療が、なぜか寿命を縮める結果になってしまったのです。
なぜ「抗がん剤なし」の方が長生きできたのか?
このパラドックスには、大きく3つの理由が考えられます。
1. 抗がん剤による全身へのダメージ
使用された抗がん剤(オキサリプラチンなど)は非常に強力です。
がん細胞を叩くと同時に、患者さんの体力や免疫力、肝機能や神経にも大きなダメージを与えます。 結果として、「身体が本来持っている健康を維持する力」まで削ぎ落としてしまった可能性があります。
2. 「切り札」を早く使いすぎてしまう(薬剤耐性)
最初に強力なカード(抗がん剤)を切ってしまうと、そこで生き残ったがん細胞は「薬への耐性」を持ってしまいます。
いざ本当に再発してしまった時に、「もうその薬が効かない」という状態になり、治療の選択肢を自ら狭めてしまうリスクがあるのです。
3. いざという時のために体力を温存する重要性
あえて手術のみにした「経過観察グループ」は、万が一再発した時に初めて抗がん剤を使います。
その時、体はまだ抗がん剤のダメージを受けておらず「フレッシュ」な状態です。
さらに薬も初めて使うため、効果を最大限に発揮できます。
大切な手札(抗がん剤)と体力温存を「ここぞ」という時まで取っておいたことが、結果的に長期的な生存に繋がったのです。
「経過観察」は「何もしないこと」ではありません
このデータから私がお伝えしたいのは、「不安だからといって治療を足し算することが、必ずしも正解ではない」ということです。
「経過観察」というと、何もしない消極的な選択のように聞こえるかもしれません。
しかし実際は「将来のもしもに備え、最善の治療カードを最高の状態で温存しておく」という、極めて積極的で戦略的な選択なのです。
「標準治療だから」と言われても、自分にとっての優先順位は何か。 QOL(生活の質)と寿命のバランスをどう取るか。 一度立ち止まって整理してみることが大切です。
治療方針に迷いや不安があるなら、一人で悩まずにぜひ相談してください。
















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