肺がんステージ4でも5年生存可能?分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を解説
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こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
今回のテーマは「ステージ4の肺がんで余命5年?!ステージ4でも5年生存する理由とは?」です。
「肺がんの生存率とステージ別の治療法」「ステージ4でも長期生存できる理由」「肺がんのリスクと発見する方法」「肺がんでよくある質問」についてお話していきます。
肺がんは増えており、治りにくい
肺がんになる人は年々増えており、最新の情報では1年間に12万6千人が肺がんになっています。その中で男性が約8万人、女性は4万人と男性に2倍多く見られます。
患者数は男女ともがんの中で4位なのですが、死亡率は男性で1位、女性で2位と、死亡率が高い、つまり治りにくいがんと言えます。
がんの治りやすさの指標に5年生存率があります。5年生存率とは、がんの治療を開始してから5年後に生きている確率のことを言います。この数値が高いほど治りやすいがんと言えます。肺がんの5年生存率は44%で、がん全体での66%と比べると、肺がんは治りにくいがんということになります。
ちなみに最も生存率が低い膵臓がんの5年生存率は11%、最も生存率が高い乳がんと前立腺がんは90%を超えています。
肺がんは主に腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がんの4つのタイプに分けられます。タイプによって生存率が異なっていて、進行が速く転移しやすい小細胞がんは5年生存率11%と膵臓がん並みに低くなっています。それに対して小細胞肺がん以外のタイプは47%と大きな差があります。
小細胞がんとそれ以外では治りやすさと治療方針が全く異なるため、小細胞肺がん以外をまとめて非小細胞肺がんと言います。
以下、非小細胞がんと小細胞がんに分けて解説します。
非小細胞がんについて
まずは、非小細胞がんの治療のお話をします。肺がんのステージ1は大きさが4cm以下でリンパ節などの転移が無い状態です。ステージ1の非小細胞肺がんは手術で完全に切除すれば完治となります。
ステージ2は大きさが4cm以上かもしくはがんのリンパ節に転移がある状態です。ステージ3は大きさが7cm以上か周りの臓器に浸潤している(食い込んでいる)状態、もしくはリンパ節転移が多数ある状態です。ステージ2、3の非小細胞肺がんも手術で切除しますが、その後に隠れていた転移が出現することがあるため、術後に抗がん剤治療などの薬物療法を行い再発のリスクを減らします。また、転移のリスクが非常に高い場合には、手術を行わずに抗がん剤と放射線治療だけになることもあります。
ステージ4は他の臓器に転移がある状態です。全身にがんが広がっていると判断され、手術ではなく抗がん剤を始めとした薬物治療が行われます。ステージ4は最も治すのが難しく、非小細胞肺がんのステージ別の5年生存率を見てみると、ステージ1は84%、ステージ2は54%、ステージ3は30%、ステージ4は8%となっています。
治すのは難しいですが、分子標的薬という薬剤の登場で、最近ではステージ4でも長期生存できる症例が増えてきました。分子標的薬は文字通りがん細胞に特有の分子を標的とした薬剤です。がん細胞内に異常な遺伝子があると、がんの増殖スイッチをONにする異常な分子が作られます。分子標的薬はそのスイッチをOFFにする薬剤だと思ってください。
実際に分子標的薬を使用するためには、まずは遺伝子の異常がないか検査を行います。非小細胞肺がんでは他のがんよりも遺伝子異常が見られる確率が非常に高く、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、NTRK、MET、RET、KRAS、HER2というがんの増殖スイッチをONにする9つの遺伝子の異常を調べます。遺伝子異常が見つかれば、遺伝子に合った分子標的薬が使用されます。
分子標的薬は奏効率(効く確率のこと)が高く、どの薬剤でも最低6割以上あります。ちなみに抗がん剤の奏効率はどんなに高くても4割くらいなので効果の違いが分かると思います。また、分子標的薬は基本的に内服薬なので、自宅で毎日内服するだけで済み、日常生活を送りながらの治療が可能です。
そんな分子標的薬の中でALK遺伝子に対する薬剤が最も効果が高く、奏効率90%以上で効果が長く続くという特徴があります。先ほどお話したステージ4の非小細胞肺がん全体の5年生存率が8%であるのに対して、ALK遺伝子異常がある場合には、60%と非常に高くなります。ステージ4と言っても、6割の人が5年以上生きることができるのです。そのため医師から「ALK遺伝子陽性の肺がんです。余命は5年です」という説明をされることがあります。
他にもEGFR遺伝子の異常でも8割近い奏効率があり、こちらは約半数の人が3年生存するため「余命は3年くらい」と言われます。ちなみに他のがんではステージ4で余命5年とか3年と言われることはまずありません。遺伝子異常を調べて、それに対する薬剤を効率的に使用することができる非小細胞肺がんだからこそです。
目印がない正常細胞には作用しないので、抗がん剤のように正常細胞にまでダメージを与えず、副作用も軽いことがほとんどです。抗がん剤でイメージするような吐き気や食欲低下、脱毛といった副作用はほぼ見られません。
また、非小細胞肺がんでは遺伝子異常を調べる際に免疫療法の効きやすさも同時に調べます。免疫療法が効きやすい場合には免疫チェックポイント阻害薬が使用されます。免疫チェックポイント阻害薬は、分子標的薬ほどではないですが、奏効率が抗がん剤より高く、また副作用も軽いという特徴があります。
小細胞がんについて
次に小細胞がんのお話をします。小細胞肺がんは進行が非常に速く、すぐに転移してしまうため、多くがステージ4で見つかります。手術を行っても非常に高い確率で再発するため、手術ではなくはじめから抗がん剤治療と放射線治療が行われます。
小細胞肺がんの薬物療法は長らく抗がん剤治療のみでしたが、2020年に免疫チェックポイント阻害薬が仲間入りしました。小細胞がんの治療薬では何と17年ぶりの新薬です。新薬の登場でこれまで抗がん剤治療を行っても平均1年未満だった生存期間が1年を超えるようになりました。当院に通院中の患者さんで、現在3年間治療されている方もいらっしゃいます。
小細胞肺がんの従来の5年生存率は2%でしたが、免疫チェックポイント阻害薬と抗がん剤を併用した場合、5年生存率は12%まで上昇するというデータが最近発表されました。たったの12%かと思うかもしれませんが、これまで1年生きるのも難しかった小細胞肺がんで5年生存する人が増えてきたというのは、非常に大きなことなのです。
肺がんの治療は次々と新しい薬剤が登場しています。遺伝子異常に対する分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、抗がん剤を組み合わせて治療することで、生存期間がどんどん長くなってきています。
一昔前は「不治の病」と言われていたステージ4の肺がんですが、今では5年生存する可能性が出てきたのです。
肺がんを早期発見するには検診とCT検査!
ステージ4でも生存期間が延びてきましたが、やはり早期発見するのに越したことはありません。
肺がんを早期で見つけるにはどうすればよいのか。肺がんは症状が出た時にはかなり進行していることがほとんどなので、症状が出る前に見つけるしかありません。
肺がんかどうかを調べる検査は、胸部レントゲンもしくはCT検査です。
最も手軽に受けられるのは肺がん検診のレントゲンで40歳以上は毎年受けることができます。「タバコを吸っていないから肺がん検診は受けなくてよい」という人がいますが、タバコ以外にも肺がんになる原因はあります。国立がんセンターの調べでは、肺がんの原因がタバコであった患者の割合は男性で68%、女性で18%という結果でした。特に女性はタバコ以外の影響が大きいと言えます。
タバコ以外の肺がんのリスクとしてよく挙げられるのが大気汚染です。
海外での調査で都市部における大気汚染により肺がんリスクが1.5倍程度にまで増加することが報告されています。最近の研究では粒子の小さなPM2.5という物質が肺の奥まで到達し、その人の持つがん遺伝子を活性化することで肺腺がんになりやすくなることが分かりました。
もう一つ意外なリスクが女性ホルモンです。初潮が早く閉経が遅い、つまり女性ホルモンに長い期間さらされている女性や、女性ホルモンであるエストロゲン補充療法を受けた女性に肺がんの発症率が高いことが分かっています。特に非喫煙者の女性で影響が大きくなるようです。
肺の持病がある人も肺がんのリスクが高くなります。COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんの10-20%は肺がんを合併するというくらい、CPODは肺がんのリスクとなります。COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんはCOPDを合併していない患者さんと比較してリスクが3-4倍と高くなります。
間質性肺炎も肺がんのリスクとなります。間質性肺炎患者さんは、間質性肺炎がない患者さんと比べて7-14倍リスクが高くなります。肺結核になった後、肺がんのリスクが5倍に増加すると言われ、肺結核の既往のある人の4%に肺がんが発症するとされています。
膠原病の人も肺がんのリスクが高くなります。膠原病の中で最も患者数が多い慢性関節リウマチ患者は健常者と比べて肺がんのリスクが約1.5倍になると言われています。
家族に肺がんがいる人も肺がんのリスクが高くなります。
肺がんの家族歴がある人は、無い人と比べてリスクが2倍になります。遺伝的な要因が関係しているのか、喫煙習慣など同じような生活習慣をしていたからなのか、理由は分かっていません。
アスベストやヒ素、クロロメチルエーテルなどの化学物質は肺がんのリスクと関連しており、それらを扱う職業の人はリスクが高くなります。
また、油煙も肺がんのリスクになります。正確には中華料理をする際の油煙が肺がんのリスクとなります。中国では主婦の肺がん率が高く、その原因を調べたところ、換気の悪い台所で油調理による油煙が要因として考えられたということです。
また中国の一部では、現在でも暖房器具として室内で石炭を焚いており、それも肺がんのリスクと考えられています。
肺がんのリスクが高い人についてまとめます
- タバコを吸っている人
- 大気汚染のひどい地域に住んでいる人
- 女性ホルモンにさらされている期間が長い人、ホルモン補充療法をしている人
- 肺の持病がある人
- 膠原病の人
- 肺がんの家族歴がある人
- 特定の化学物質を扱う職業の人
- 油調理で油煙を吸うことが多い人
リスクが高い人はもちろんですが、これだけ肺がんが多くなると誰でもなり得るので、高リスクに当てはまらない人でも肺がん検診は受けて欲しいです。肺がん検診のレントゲンだけでは見つけにくい肺がんもあるので、私は数年に1回は低線量CT検査を受けることをオススメします。
CT検査というと放射線の被ばくを気にする人がいます。しかし最近では「低線量CT」という放射線の量をかなり抑えたCT検査もあります。低線量CTは通常のCTの1/10の放射線量しかなく、健康診断で行う胃のバリウム検査で被ばくする放射線量と同じくらいです。数年に1回撮るくらいであれば、健康被害はほとんどないと言われています。
肺がんの薬物療法はどんどん進歩しており、長期生存例も増えてきました、ただ、早期発見に勝るものはありません。
毎年の肺がん検診と数年に一度のCT検査で、肺がんの早期発見に努めましょう。
肺がんについてのよくある質問
- コロナに感染した後、2か月ほど咳が続いているんですが、コロナで肺がんになりやすいとかあるのでしょうか?
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今のところそのような報告はありません。肺がんによる咳かどうかは、調べてみるしかありません。
- 喘息持ちなんですが、肺がんになりやすいですか?
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喘息患者は肺がんになりやすいという報告と、逆になりにくいという報告があり、結論は出ていません。
- 肺がんに特化した腫瘍マーカーはありますか?
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肺がんでよく上昇する腫瘍マーカーはありますが、良性腫瘍でも上昇することがあるため100%ではありません。また早期がんで上昇することは少ないです。
- CTで肺に薄い影があったけど、3か月後にまたCTで見ましょうと言われました。放っておいて大丈夫でしょうか?
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炎症などで薄い影が出ることがあり、その場合は数か月待っていれば薄くなったり消えたりします。がんかどうかを見極めるために経過を見るのですが、がんだとしても薄い影の場合にはその数か月で手遅れになることはまずありません。
- 肺がんで手術したら、肺活量はどれくらい落ちますか?
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肺は5つの区画(肺葉と言います)に分かれ、手術はがんのある区画を完全に切除します。そのため、手術直後は20%ほど呼吸機能が落ちます。しかし、残った肺が膨らんで呼吸機能を補うので、最終的には10%くらいの低下で済むと言われています。
- 高齢で手術ができなそうな場合は、重粒子線治療で治りますか?
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手術よりは治療成績が落ちますが、治療することはできます。ただし、陽子線治療や重粒子線治療は肺がんでは保険が効かず、先進医療で300万円ほどかかります。
- 肺がんは放射線治療だけで治すことはできませんか?
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高齢や持病で手術ができない人に対して放射線治療を行うことがありますが、手術よりは治療成績は劣ります。ステージ2以上の場合には、放射線治療だけでなく抗がん剤も併用した方が治療成績は良いです。
- 肺がんはどこに転移しやすいですか?
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肺がんでよく見られる転移先は、脳、骨、肝臓、副腎、反対側の肺です。
- 肺がんのステージ4の友人が元気そうにしてて、今度海外旅行に行くみたいです。本当にステージ4なのか疑問です。
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ステージ4でも、遺伝子異常があり分子標的薬を内服している方は、多少の副作用はありますが元気な方が多いです。
- 分子標的薬の副作用で指や爪の周りが荒れています。病院から薬を処方されていますが、あまりよくなりません。何か良い方法はないでしょうか。
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手足症候群という分子標的薬によくある副作用です。ある研究で、ビタミンCで症状が軽くなるという報告がありましたので、試してみても良いかもしれません。個人的には患者さんにCBD(カンナビジオール)クリームを勧めています。
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