
「砂糖はがんに悪い」というのは本当か?

濱元誠栄院長こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
「がんは糖をエサにする。だから糖質を断てばがんは兵糧攻めで死ぬ」
こうした説明を聞いたことがある人は多いと思います。
確かに、がん細胞はブドウ糖をよく消費します。これは1920年代に発見された「ワールブルグ効果」と呼ばれる現象で、現在でもがん診断のPET検査に利用されているほどよく知られた事実です。
しかし、ここから「だから糖を断てばがんが消える」という結論に飛びつくのは、少し短絡的です。
なぜなら、糖を使うのはがん細胞だけではないからです。
人間の体で、最も糖を必要としているのは脳です。脳は通常、ほぼブドウ糖だけをエネルギー源として動いています。
糖質を極端に制限すると、体はやむなく脂肪を分解し、「ケトン体」という代替燃料を作り始めます。
ケトン体は確かに優れたバックアップ燃料で、飢餓や断食の際には私たちを生き延びさせる重要な仕組みです。
しかし、それは本来、緊急時の代替システムです。
私たちの体は、糖と脂質を状況に応じて使い分ける「ハイブリッド型」の代謝で設計されています。どちらか一方だけに極端に偏らせるのは、エンジンを単一の燃料だけで無理に回し続けるようなものです。
さらに最新の研究では、がん細胞の中には、ブドウ糖だけでなくケトン体を利用して増殖できるタイプが存在することも報告されています。
たとえば乳がんや悪性黒色腫の一部では、ケトン体をエネルギー源として取り込む代謝経路が確認されています。
つまり、糖を断ちケトン体を増やすことが、必ずしも「がんの兵糧攻め」になるとは限らないのです。
ここでもう一つ、臨床の現場から見える重要な事実があります。
がん患者さんの体調が大きく崩れるとき、多くの場合、最初に起きるのはエネルギー不足です。食欲が落ち、体重が減り、体が衰えていく。この状態を医学では「悪液質」と呼びます。
この段階に入ると、体はがんそのものよりも、エネルギー不足によって弱っていきます。
だからこそ、がん治療では「しっかり食べること」がとても重要になります。
食事量が減った患者さんに対して、医療現場ではむしろエネルギーを補う工夫をします。糖質を含む栄養補助食品が使われることも珍しくありません。
つまり、実際の医療現場では、糖は「敵」ではなく、体を支える燃料として扱われています。
ここで、多くの健康情報が見落としている視点があります。
それは、健康とは「敵を排除すること」ではなく、体のシステムを普通に動かすことだという点です。
人間の体には、免疫、神経、ホルモン、腸内細菌など、無数の仕組みがあります。それらがうまく連携することで、私たちは病気から守られています。
そのためには、極端な制限よりも、体が安心して働ける状態を保つことが重要です。
ここで私が患者さんによく伝えている、とても単純な方法があります。
それは、甘いものを「薬のように」使うことです。
疲れたとき。
頭がぼんやりするとき。
イライラが続くとき。
そんなときに、砂糖を完全に避けるのではなく、少量の甘いものを意識して口にするのです。
一口のチョコレート。
小さなお菓子。
果物。
それだけで脳にブドウ糖が届き、神経系の緊張がゆるみ、体のエネルギーの流れが戻ることがあります。
私はこれを、
「甘味リセット」
と呼んでいます。
砂糖を無制限に食べることを勧めているわけではありません。重要なのは、砂糖を敵にするのではなく、体を立て直すための小さなスイッチとして使うことです。
健康情報の世界では、ある食品が突然「悪者」にされることがあります。塩、脂肪、コレステロール、そして今は砂糖です。しかし歴史を振り返ると、その多くは後になって修正されてきました。
体はそんなに単純ではありません。
一つの栄養素だけで健康が決まることもありません。
むしろ、人間の体はとても柔軟で、少し甘いものを楽しみながらでも、十分に強く働いてくれます。
砂糖を完全に排除して体を緊張させるよりも、必要なときに少しだけ甘味を使って、体のエネルギーを整える。
その方が、体は長く、静かに働き続けてくれるのです。


















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