甲状腺がんの初期症状と見分け方。なりやすい人や増加の意外な原因とは?
【YouTube動画でご覧になりたい方はこちら】
こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
今回のテーマは「日本と韓国で急増、甲状腺がん!」です。
「甲状腺がんの初期症状とリスク」「日韓で増えている理由」などについて解説します。
「甲状腺」とはどんな組織?
甲状腺は首の真ん中、喉仏のすぐ下にあります。蝶が羽を広げたような形をしていて大きさは4、5cmありますが形状は薄く、気管に張り付いているので外から見ても分かりませんし、触れても分かりません。
病気で甲状腺が腫大したりしこりができると首が腫れたように見えるので周りに気付かれるようになります。ただ自分では意外と気付きません。
甲状腺は甲状腺ホルモンを作る臓器です。甲状腺ホルモンは体全体の新陳代謝を促進する働きがあります。
通常、甲状腺ホルモンは多すぎたり少なすぎたりしないようバランスが保たれていますが、甲状腺の働きに異常があらわれるとそのバランスが崩れてしまいます。
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されて新陳代謝が活発になる病気を甲状腺機能亢進症(別名バセドウ病)と言います。
甲状腺機能亢進症の症状は暑がり、汗をかきやすい、動悸など代謝が活発化したことによる身体的なものと、イライラするなど精神的なものがあります。
また長期間にわたると目が飛び出してくるといった見た目の変化も起きます。
逆に甲状腺ホルモンの分泌が低下すると、寒がり、疲れやすい、脈がゆっくりになる、無気力など代謝が低下したことによる症状が出てきます。
甲状腺がんの初期症状、自覚症状
甲状腺がんの自覚症状で最も多くみられるのは「しこりが触れる」です。甲状腺がんになっても甲状腺ホルモンに異常が見られることはほとんどないので、甲状腺機能亢進症や機能低下症のような症状は見られません。
進行すると甲状腺の傍にある気管や食道などにがんが広がり、声のかすれや喉の痛み、血痰、飲み込みにくさなどが出てくることがあります。
甲状腺がんのリスクを上げる可能性があるのは以下の3つです。
- 海藻(かいそう)
- 放射線
- 女性ホルモン
海藻にはヨウ素が多く含まれています。海藻が髪に良いという話は聞いたことがあるかもしれません。海藻に含まれるヨウ素には髪の毛の成長を促す働きがあります。
閉経後の女性がヨウ素を摂りすぎると、甲状腺がんのリスクが上がるということが分かっています。ちなみに男性や閉経前の女性だとリスクは全く上がらないようです。
放射線と甲状腺がんの関係を世界で初めに証明したのは広島・長崎の原爆でした。
被ばくから10年ほどで甲状腺がんが増え始めました。また年齢が若いほど、被ばくした放射線量が多い人ほど、甲状腺がんの発生率が高いということが分かりました。
1986年のチェルノブイリ原発事故では、被ばく後4年ごろから小児の甲状腺がんが増え始め、当時の世界平均の100倍の甲状腺がんの発生率を記録しました。
原爆や原発事故ほどではないですが、レントゲンやCT検査による被ばくでもわずかながらリスクは上がるようです。特に歯科用のCT検査で若い女性ほどリスクが上がるという研究があります。
女性ホルモンであるエストロゲンも甲状腺がんのリスクに関係すると考えられています。初潮から閉経までの期間が長い、つまりエストロゲンにさらされている期間が長いほど甲状腺がんのリスクが高まります。
甲状腺がんの症状とリスクのまとめ
甲状腺がんでは、しこりが触れる以外の症状はほとんど見られません。かなり進行すると声のかすれや喉の痛み、飲み込みにくさなどが出ることがあります。
罹患リスクは以下の3つです。
- 海藻類の摂り過ぎ(閉経後の女性でリスクが高くなる)
- 放射線(小児や若い女性で影響がある)
- 女性ホルモン(閉経が遅い人ほどリスクが上がる)
女性ホルモンが関係しているからか、甲状腺がんは女性に多く、女性の患者数は男性の約3倍となっています。
甲状腺がんはアメリカやヨーロッパをはじめ世界中で増えていて、日本でもここ30年で患者数が3倍に増えました。
増えているとは言っても、他のがんに比べると患者数はまだ少なく、女性のがんの中で10位、男性ではかなり下の順位となっています。
韓国で甲状腺がんが激増した意外な原因とは?
しかし、お隣の韓国では2009年から2014年まで全てのがんの中で甲状腺がんが患者数の1位だった時期がありました。2014年当時、人口が日本の半分以下である韓国で日本の2倍の数の甲状腺がん患者がいました。
なぜこんなにも韓国で甲状腺がんが多いのか?答えは「甲状腺がんの検査が普及したから」です。
甲状腺がんは基本的には進行がかなりゆっくりで、ある程度の大きさまで行くと進行が止まってしまうことが多いです。特に大きさが1㎝以下で見つかった甲状腺がんの場合には大きくなる確率は10%くらいなので手術などの治療は行わず経過観察となります。
1㎝以下の甲状腺がんであれば、命に関わる可能性は低いと考えられています。海外のあるデータでは、高齢者を死亡解剖すると1/3に1㎝以下の甲状腺がんが見つかったという報告もあります。
エコー検査が普及した現代は、一生何も悪さをしなかった可能性がある甲状腺がんまでも見つけるようになった、過剰診断と言えます。
実際、韓国では「がんの早期発見・早期治療」を目標に1999年から甲状腺がん検査の大幅な補助が始まったことで検診を受ける人が増え、それに伴い甲状腺がんの患者数が増えたと考えられています。
日本でも同じようなことが起きたことは記憶に新しいかもしれません。2011年の東日本大震災で福島第一原発事故が起き、放射性物質が飛散しました。
福島県が18歳以下の子供たちの甲状腺を調べたところ、甲状腺がんが多数見つかりました。
しかし、10年に渡って調べ続けてみると、被災した年に見つかった件数が最も多く、その後減少し、10年目に見つかった件数が最も少ないという結果でした。
チェルノブイリ原発事故では被ばく後4年目以降から徐々に甲状腺がんが増えてきたことを考えると、福島県での検査は隠れていた甲状腺がんを見つけてしまったのだと考えます。しかも、その後の発見数の経過を見ると、原発事故で甲状腺がんが増えてはいないと思われます。
話を戻します。検診によって甲状腺がんが急増した韓国では発見されたがんの9割以上が小さな甲状腺がんで、大部分が放置していても生命予後に関係が無かったと考えられています。事態を重く見たマスコミが「甲状腺がんの過剰診断」について取り上げ、社会問題となりました。
その後は甲状腺がん検診の受診者が減少し、今ではピーク時の半分にまで減ったそうです。それに伴い、甲状腺がんの患者数も激減しています。
日本で甲状腺がんが増えている理由の一つに、韓国と同じく過剰診断が挙げられています。通常、がんは早期発見・早期治療が常識となっていますが、甲状腺がんのように命に関わる可能性が低いがんには当てはまりません。
ただ甲状腺がんがいかに経過の良いがんだとは言っても、診断されてしまった以上、治療したくなるのが心情だと思います。
しかし進行しない可能性が高いがんを手術してしまったばっかりに、首に大きな傷跡が付いたり、手術の合併症で声がかすれたり、ものが飲み込みにくくなることもあります。
1㎝以下の甲状腺がんに対して手術せずに経過観察を行った日本でのデータがあります。それによると、
- がんが増大するリスクやリンパ節転移が出現する可能性が低い
- 経過観察中に増大したり転移が出現したりした場合に、すぐに手術を行えれば甲状腺がんで死亡する人がいなかった
となっています。ですから慌てて合併症の危険のある手術を選択しなくても大丈夫です。
まとめ
早期の甲状腺がんは命に関わらないことが多く、もし見つけたとしても、合併症のリスクがある手術ではなく経過観察で十分な場合があることを理解しておきましょう。
コメント