ステージ4乳がんで、原発巣の切除をすべきか?

濱元誠栄院長

こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。

ステージ4乳がんと診断されたとき、多くの患者さんが一度は考えることがあります。

「転移があっても、胸のしこりは取った方がいいのではないか?」

原発巣が残っていることで、不安になることもあります。また、そこから新たな転移が生まれるのではないかという不安を感じる方もいます。

あとは、腫瘍が大きくなり花咲乳がんになると、出血、痛み、皮膚のただれ、浸出液、においなどで日常生活が大きく損なわれます。

そのような問題を解決する目的で、ステージ4乳がんの原発巣切除について、私は比較的「推奨派」です。

2022年度のガイドラインにはこう書かれています。

予後の改善が目的→NG

局所制御が目的→OK

ステージ4乳がんで原発(乳房)切除しても、生存期間が変わらないというのは臨床試験の結果から、強く言われています。

この考え方を支持する日本の大きな試験が、JCOG1017/PRIM-BC試験です。診断時から遠隔転移を有する乳がん患者さんに、まず3か月間の全身療法を行い、病勢進行がなかった方を「薬物療法のみ」と「原発巣切除+薬物療法」に分けて比較しました。その結果、全生存期間に統計学的な有意差はありませんでした。

しかし一方で、局所無再発生存期間は、手術なし群20か月に対して、手術あり群63か月と大きく延長しました。

さらに重要なのは、局所症状です。JCOG1017では、

4年時点の局所潰瘍

手術なし群 24.9%

手術あり群 10.4%

局所出血

手術なし群 26.8%

手術あり群 14.4%

でした。つまり、手術によって、胸の病変が崩れたり、出血したりするリスクは明らかに減っています。

ここに、ステージ4乳がんにおける原発巣切除の本当の意味があります。

原発巣切除は、花咲乳がんになっても困らないようにするための手術だと思います。

胸の腫瘍が皮膚に近い、大きくなってきている、赤みやただれがある、出血しやすい、浸出液が出ている、においがある、痛みがある。こうした場合、私は原発巣切除をかなり前向きに検討してよいと思っています。

特に、全身療法で転移巣がある程度コントロールされている場合、原発巣が完全切除できそうな場合、手術による全身療法の中断が短く済む場合、そして患者さん自身が「胸の病変があること」に強い負担を感じている場合には、局所制御目的の手術は十分に意味があります。

一方で、慎重派の意見も非常に大切です。

ステージ4乳がんは、基本的には全身病です。転移がある以上、治療の主役は薬物療法です。手術をすることで抗がん剤や分子標的薬、内分泌療法が一時的に中断されることがあります。創部感染、痛み、可動域制限、創傷治癒遅延などのリスクもあります。JCOG1017でも、手術あり群の術後早期合併症はGrade 2以上が6.4%、Grade 3以上が1.2%と報告されています。

また、手術をしても完全に取り切れない場合は注意が必要です。JCOG1017では、切除断端陽性の患者さんでは局所再発が多く、断端陰性の患者さんより予後が悪い傾向が示されています。つまり、「とりあえず切る」ではなく、「安全に、きれいに、目的を達成できる形で切れるか」が重要です。

もう一つ、忘れてはいけない点があります。手術をしなかった群でも、約75%の患者さんは局所出血や潰瘍を起こしていません。つまり、全員に先回りして手術をすればよいわけではありません。局所トラブルを起こしやすい人を見極めることが、これからの課題です。

結局、どんな人で原発巣切除を考えやすいのでしょうか。

私は、次のような条件が重なる場合には、主治医と積極的に相談してよいと思います。

原発巣が大きい

皮膚に近い

潰瘍や出血の前兆がある

すでに浸出液、におい、痛みがある

全身療法で転移巣が落ち着いている

原発巣が完全切除できそう

全身状態が手術に耐えられる

術後の回復が見込める

そして何より、患者さん本人が「胸の病変を抱えたまま生活すること」に強い苦痛を感じている場合です。

ただ、現在のほとんどの乳腺外科医は、「予後が変わらない」という理由だけで原発切除をしません。

もちろん、転移巣が急速に悪化している場合、肝転移や肺転移などが差し迫って命に関わる状態の場合、全身状態が悪い場合、広範な胸壁浸潤で完全切除が難しい場合、手術創が治りにくいと予想される場合には、手術を急ぐべきではありません。

ガイドラインでは弱く推奨されているので、局所制御目的にもっと手術しても良いと思うのですが、頑なに拒否されます。

この頑なさって、何なんでしょうね、、、

2026年度版の最新のガイドラインでも全く同じでした。

この頑なさって、何なんでしょうね、、、

花咲乳がんになって、出血や浸出液、においなどで苦労されている場合には、もう一つ緩和照射という選択肢があります。

緩和照射というと、「もう治療法がない人が痛みを取るための治療」と誤解されることがあります。しかし、それは違います。緩和照射は、痛み、出血、潰瘍、浸出液、においなどを抑えて、生活を守るための治療です。日本放射線腫瘍学会も、局所進行乳がんや皮膚転移による出血、浸出液、悪臭に対して緩和照射が有用であると示しています。

緩和放射線治療のガイドラインでも推奨されています。

手術が難しい場合。出血や浸出液をまず抑えたい場合。全身状態が悪く、全身麻酔が負担になる場合。通院回数を減らしたい場合。こうした状況では、緩和照射は非常に現実的な選択肢です。

ただ、、、この緩和照射についても、やはり積極的には勧められません。

乳がんで部分切除した後は、再発予防の放射線治療が自動的に付いてきますし、骨転移で病的骨折の危険がある場合には緊急でそれ以外では全くと言ってよいほど放射線治療の話題が出てきません。

ステージ4乳がんでは、どうしても薬物療法が中心になります。それは間違いありません。ただ、薬物療法だけを見ていると、胸に残った病変が患者さんの生活にどれほど影響するかが見落とされがちです。

服に血がつく。ガーゼ交換がつらい。においが気になる。人に会うのが怖くなる。お風呂に入るのが不安になる。胸を見るたびに気持ちが沈む。

こうした苦しみに、もう少し目を向けて欲しいのです。

だから私は、ステージ4乳がんの原発巣切除を、もっと前向きに考えてよいと思っています。

もちろん、延命効果を期待して全員に勧める治療ではありません。慎重な判断が必要です。薬物療法の効果、転移巣の勢い、原発巣の状態、手術の安全性、放射線治療の選択肢、そして患者さん本人の価値観を合わせて考える必要があります。

ただ、局所制御という目的で見れば、原発巣切除には確かな意味があります。

ステージ4だから、胸の病変は放置でよい。
そう決めつける今の体制を何とかして欲しいです。

「長く生きるため」だけでなく、「今の生活を守るため」にできる治療。

原発巣切除も、緩和照射も、そのための大切な選択肢です。

主治医が提案してくれないのであれば、患者側が勉強して提案するしかありません。

正しく必要性を理解し、しかっりと主治医とコミュニケーションを取りましょう。

濱元誠栄院長

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この記事を書いた人

1976年宮古島市生まれ。宮古島市立久松中学から鹿児島県のラ・サール高校に進学。鹿児島大学医学部を経て沖縄県立中部病院で研修医として勤務。杏林大学で外科の最先端医療を学んだのち再び沖縄県立中部病院、沖縄県立宮古病院、宮古徳洲会病院に外科医として勤務。2011年9月に上京しRDクリニックで再生医療に従事した後に、18年7月にがん遺伝子治療を専門とする銀座みやこクリニックを開院。

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