【革新】ctDNAで『画像より先に、がんの変化を捉える』時代へ

濱元誠栄院長

こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。

2026年8月、JAMAから「Liquid Biopsies for Cancer」という非常に分かりやすいレビューが発表されました。

今回のテーマは、Liquid Biopsy(リキッドバイオプシー)、なかでも注目されているctDNAです。

ctDNA(シーティディエヌエー)とは、

circulating tumor DNA
=血液中を流れている「がん細胞由来のDNA」

のことです。

がん細胞が死んだり、DNAを放出したりすることで、ごく微量のがん由来DNAが血液中に流れ出します。

今回のJAMA Reviewによると、がん患者さんの約75%でctDNAが検出可能とされています。ただし、これはがん種やステージ、腫瘍量などによって大きく異なります。

血液中には、正常細胞などから出てくるcell-free DNA(cfDNA)も存在しています。

体内を巡回しているDNAの中で、がん細胞由来のctDNAが占める割合は、1%未満しかありません。

現在は、このわずかな量のDNAを高感度に解析することで、

・がんの遺伝子変異を調べる
・治療効果をモニタリングする
・薬剤耐性の出現を早期に捉える
・手術後に残った微小ながん(MRD)を検出する
・画像に映る前の再発の兆候を捉える

といったことが可能になりつつあります。

目次

① これまでは「どの薬を使うか」を決める検査だった

ctDNAの利用として、すでに臨床で広く知られているのが、

がんの遺伝子変異を血液から調べ、治療薬を選択する

という使い方です。

例えば、

肺がん → EGFR、ALKなど
乳がん → ESR1、PIK3CAなど
大腸がん → RAS、BRAFなど

といった遺伝子異常を調べ、分子標的薬などの治療選択につなげることができます。

米国ではEGFR変異などを調べる複数の血液ベースの検査がFDA承認されています。

組織生検と比較した場合、血液を用いるLiquid Biopsyには、気を付けなければならない重大なデメリットがあります。

それが、

「ctDNA陰性=その遺伝子変異が存在しない」とは限らない

という点です。

腫瘍量が少ない場合や、血液中へDNAを放出しにくい腫瘍ではctDNAが検出されないことがあります。

そのため、ctDNAの偽陰性が起こりえます。

② 「どの薬を使うか」から「いつ薬を変えるか」へ

そのようなデメリットがある反面、ctDNA研究は以下のようなことを可能にします。

乳がんのSERENA-6試験を見てみます。

対象はER陽性/HER2陰性の進行乳がん。

アロマターゼ阻害薬(AI)+CDK4/6阻害薬で治療中の患者さんに、定期的なctDNA検査を行いました。

すると、

CT上ではまだ増悪していない。

しかし血液中には、

ESR1変異が新しく出現している

という患者さんが見つかります。

ESR1変異は、アロマターゼ阻害薬に対する獲得耐性と関連する重要な変化です。

つまり、

画像ではまだ治療が効いているように見えても、分子レベルではすでに耐性獲得が始まっている可能性があります。

SERENA-6では、この段階でAIから次世代の経口SERDであるカミゼストラントへ切り替えました。

その結果、無増悪生存期間(PFS)は、

カミゼストラント群:16.0か月
アロマターゼ阻害薬継続群:9.2か月

でした。

これはかなり重要な結果です。

これまでは、

CTでがんが大きくなる
 ↓
「効かなくなった」と判断する
 ↓
治療を変更する

という流れが一般的でした。

SERENA-6が示したのは、

がんが画像上大きくなる前に、血液中のDNAから「分子進化」を捉えて治療を変更する

という新しい考え方です。

③ 大腸がんでは、CTより約8.7か月早く再発を検出

大腸がんにも非常に興味深いデータがあります。

JAMA Reviewで紹介された前向き研究では、術後の患者さんをctDNAとCTで追跡しました。

再発が確認された時期は平均で、

ctDNAによる分子学的再発:術後5.5か月
CTによる画像上の再発:術後14.2か月

その差は、

約8.7か月

でした。

つまり、

CTにはまだ何も映っていないけれど、体内ではすでに再発につながるがん細胞が存在しているという状態を、ctDNAでは数か月早く捉えられる可能性があります。

ただし、「早く見つけられる」ことと、「早く治療すれば生存期間が延びる」ことは同じではありません。

ctDNAだけが陽性で画像に病変が見えない段階から治療を始めることが、すべてのがんで患者さんの予後改善につながるかは、現在も検証が続いています。

特に予後が良いとされているホルモン陽性乳がんでは、差が付きにくいです。

JAMA Reviewでも、ctDNA陽性・画像陰性の場合の最適な治療開始時期などはまだ明確ではないとされています。

④ 日本発「GALAXY試験」も非常に重要

そして大腸がんでは、日本から非常に重要なデータが出ています。

CIRCULATE-JapanのGALAXY試験です。

Stage II~IVまたは再発大腸がんに対して根治目的の切除を行った患者さんを、術後ctDNAで追跡しています。

2024年にNature Medicineで発表された2,240例の解析では、術後に

ctDNA陽性だった患者さんの再発リスクは、ctDNA陰性患者さんの約12倍

でした。

具体的には、

ctDNA陽性:336例中263例(78%)が再発 
ctDNA陰性:1,773例中233例
(13%)が再発

でした。

これは、

「CTではがんが消えているように見える患者さんの中から、実際には体内に微小ながんが残っている可能性が高い患者さんを見つける」

というctDNAの能力を非常によく示しています。

手術によって目に見えるがんをすべて取り切った。

でも数週間後の血液検査では、まだがん由来DNAが出ている。

そんなことが分かる時代になってきたわけです。

⑤ さらに膀胱がんでは「生存期間」まで改善

個人的に、ctDNA研究の中でも特に重要だと思うのが、IMvigor011試験です。

筋層浸潤性膀胱がんの患者さんで、手術後には画像上がんが認められない人をctDNAで定期的にモニタリングしました。

761人が登録され、そのうちctDNA陽性となった250人を、

アテゾリズマブ群
 vs
プラセボ群

へ無作為に割り付けました。

結果は、

無病生存期間(DFS)

9.9か月 vs 4.8か月

全生存期間(OS)

32.8か月 vs 21.1か月

と、OSまで有意に改善しました。

これまでのctDNA研究は、

「ctDNA陽性の人は再発率が高い」

という、

予後予測バイオマーカー(prognostic biomarker)

としての研究が中心でした。

しかしIMvigor011は、

ctDNAで画像では見えないほど少量のがんを発見する
 ↓
その情報をもとに治療対象の患者さんを選ぶ
 ↓
治療介入する
 ↓  
実際に生存期間が改善する

というところまで踏み込みました。

ctDNAが単なる「再発予測検査」から、治療そのものを決める検査へ変わり始めています。

⑥ 未来のがん治療はどう変わる?

これまでの術後がん治療は、簡単にすると、

手術
 ↓
病理学的Stageを確認
 ↓
再発リスクを予測
 ↓ 
術後抗がん剤を行うか判断
 ↓
定期的にCT
 ↓
画像で再発を確認
 ↓
治療開始

という流れでした。

これにctDNAが加わると、将来的には、

手術
 ↓
ctDNA測定
 ↓
陽性→ 術後治療の強化を検討

陰性→ 不要な治療を減らせる可能性

さらに、

定期的にctDNAを測定
 ↓
ctDNAが陽性化
 ↓
「分子学的再発」を検出
 ↓
必要に応じて画像検査を強化
 ↓
より早期の治療介入を検討

という流れになる可能性があります。

すでにStage II大腸がんのDYNAMIC試験では、ctDNAを使って術後化学療法を行う患者さんを減らしても、標準的な判断方法に対して再発予後を悪化させなかったことも示されています。

「ctDNA陽性=すぐ治療」ではない

ここは非常に重要です。

ctDNAはものすごく期待されている検査ですが、

どのがんでも、ctDNAを測れば治療方針が決まる

という段階ではありません。

例えば、

「ctDNAは陽性。でもCTには何も映っていない」

という患者さんがいた場合、

・本当にすぐ治療を始めるべきなのか
・どの薬を使うのか
・治療効果を何で判定するのか
・ctDNAが陰性になったら治療を止めてよいのか
・いつまで治療を続けるのか

など、まだ解決されていない問題があります。

JAMAのReviewでも、ctDNA検査を行う最適な時期、画像で病変が確認できないctDNA陽性例への対応、費用対効果などはまだ明確になっていないとされています。

「画像を見るがん治療」から「分子の動きを見るがん治療」へ

CTやMRIは、基本的には、

「がんがどのくらいの大きさになっているか」

を見る検査です。

一方ctDNAは、

「がん細胞が今、どのように変化しているのか」

を血液から捉えようとする検査です。

SERENA-6では、画像上の進行より前に薬剤耐性を捉えて治療を変更しました。

大腸がんでは、画像上の再発より平均8.7か月早く分子学的再発を検出できた研究があります。

GALAXYでは、術後ctDNA陽性が約12倍の再発リスクと関連しました。

さらにIMvigor011では、ctDNA陽性患者さんを選んで治療することで、実際に全生存期間まで改善しました。

まだ課題は山積みです。

それでも、

「CTで大きくなるまで待つ」だけではなく、がんの分子学的な変化を血液から先に捉える。

そんながん治療が、かなり現実のものになってきました。

これは非常に面白い流れだと思います。

当院でもctDNA検査についてご相談いただけます

銀座みやこクリニックでも、ctDNAを利用した検査を自費診療で行っています。

ただし、ctDNA検査が適しているかどうか、また結果をどのように解釈するかは、がん種・病期・現在の治療・検査目的によって大きく異なります。

「検査をすれば必ず再発が分かる」「陽性ならすぐ治療すべき」というものではありません。

検査をご希望の場合は、現在の治療経過や画像検査、病理・遺伝子検査の結果などを含めて総合的に判断します。

濱元誠栄院長

今、受けてるがん治療に迷いがある方へ

銀座みやこクリニックは、豊富な治療選択肢によるアプローチであなたに適したオーダーメイドのがん治療をご提供するがん専門クリニックです。

当院はまず標準治療を第一に考え、現在の治療状況を整理したうえで、保険診療・自由診療・補助療法を含め様々な選択肢を一緒に考えるセカンドオピニオンを行っています。

「当院で治療を受けるかどうか」は相談後に決めていただけます。

まずは気軽にお電話もしくはお問い合わせフォームからお問い合わせください。

診察:10時~18時(休診日:水曜,日曜,祝日)
当院住所:東京都中央区銀座3丁目10-15 東銀2ビル 6階

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この記事を書いた人

1976年宮古島市生まれ。宮古島市立久松中学から鹿児島県のラ・サール高校に進学。鹿児島大学医学部を経て沖縄県立中部病院で研修医として勤務。杏林大学で外科の最先端医療を学んだのち再び沖縄県立中部病院、沖縄県立宮古病院、宮古徳洲会病院に外科医として勤務。2011年9月に上京しRDクリニックで再生医療に従事した後に、18年7月にがん遺伝子治療を専門とする銀座みやこクリニックを開院。

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