
抗がん剤を休んでいる間、何かした方がいいですか?

濱元誠栄院長こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
診察室で、
「抗がん剤の投与が3週間おきだけど、もっと期間が短い方が効くのでは?」
「白血球が少なくて抗がん剤が1週間延びたけど、その間にがんが大きくならないか心配」
「休薬期間中に何かできることはありませんか?」
と聞かれることがあります。
抗がん剤の治療では、予定どおりに休薬期間が設けられていることもあれば、白血球の低下や副作用のために、予定していた治療が延期になることもあります。
そんなとき、「治療をしていない時間」ができたように感じて、不安になったり、何かしなければと焦ったりする方は少なくありません。
でも、休薬期間は「何もしない空白の時間」ではありません。
次の治療を安全に続けるために、体を回復させる時間です。
今回は、抗がん剤の休薬期間に何をしたらよいのか、逆に何を頑張りすぎなくてよいのかを整理していきます。
なぜ抗がん剤には「休薬期間」があるのか?
抗がん剤は、がん細胞だけを選んで攻撃しているわけではありません。
がん細胞のように活発に増える細胞を狙う薬では、骨髄で作られる白血球や血小板、口や腸の粘膜、毛根など、正常な細胞にも影響が出ます。
そのため抗がん剤治療は、
抗がん剤を投与する
↓
正常な細胞にも影響が出る
↓
正常な細胞が回復する
↓
次の抗がん剤を投与する
というサイクルで組まれています。
つまり、休薬期間は治療をしていない時間ではなく、最初から治療の中に組み込まれている時間なのです。
たとえば、「3週間ごとに投与」という治療であれば、抗がん剤を投与する日だけが治療なのではありません。
次の投与までの3週間すべてを含めて、1回の治療サイクルです。
「予定された休薬」と「治療が延びた」は少し意味が違う
ここで、もう一つ知っておいてほしいことがあります。
一口に「休薬」といっても、いくつかの種類があります。
最初から治療スケジュールに組み込まれている休薬期間もあれば、白血球や血小板が十分に回復していないために、治療を1週間延期することもあります。
また、しびれや下痢、皮膚障害などの副作用が強く、一度休んでから減量して再開することもあります。
患者さんからすると、
「予定どおりに抗がん剤ができなかった」
ことになるので、不安になるのは当然です。
特に、
「1週間も空けたら、その間にがんが大きくならないのか」
と心配される方は多いです。
ただ、白血球や血小板が十分に戻っていない状態で無理に抗がん剤を続ければ、重い感染症や出血などを起こし、結果としてもっと長く治療を休まなければならなくなることがあります。
抗がん剤治療では、1回も休まず予定どおりに続けることだけが正解ではありません。
そのときの血液検査、副作用、体調を確認しながら、必要であれば少し休む。
それも、治療を長く安全に続けるための一つの方法です。
では、その休薬期間をどう過ごせばよいのでしょうか。
ここで大切なのは、
「休薬中に何か特別ながん治療をする」ことではなく、次の治療を受けられる体に戻していくことです。
そのために、まず知っておきたいのが、抗がん剤を受けた後の体調には「波」があるということです。
全体の流れは残しつつ、重複を削って2〜3割ほど短くしました。
抗がん剤のあとは、体調に「波」があります
抗がん剤を受けた翌日から、ずっと同じようにつらいわけではありません。
多くの方は、
投与
↓
副作用が強い期間
↓
少しずつ回復
↓
比較的元気な期間がある
↓
次の治療
という流れを繰り返します。
*副作用が出る時期や強さは、体調や体質、状態、薬剤の種類によって違います。
また、血液検査のデータは必ずしも体調を反映しないので、
「体調が回復=血液検査も完全に戻っている」とは限らない
ということがあります。
食事が取れて外出できるくらい元気でも、白血球、とくに好中球がまだ少ないということもあります。
そのため、調子が戻ってきても急に予定を詰め込まず、少しずつ普段の生活に戻していきましょう。
休薬期間は4つの時期に分けて考える
① 抗がん剤直後〜副作用が強い時期
この時期は、無理に食べたり、運動したりする必要はありません。
吐き気があれば吐き気止めを使う。
水分を少しずつ取る。
食べられるものを、食べられる量だけ食べる。
眠ければ休む。
まずは、副作用を抑えながら抗がん剤が体から抜けるのを待つ時期です。
この時期は、
「何を食べるのがよいか」より、「何なら口にできるか」
を優先して構いません。
② 少しずつ回復してきた時期
吐き気やだるさが少し落ち着き、食事も少しずつ取れるようになってくる時期です。
この時期は、食事量や水分を少しずつ戻しながら、味覚障害や口内炎、便通など、残っている副作用を整えていきます。
ただ、ここでよく問題になるのが味覚障害です。
抗がん剤治療中には、
- 何を食べても味が薄い
- 苦く感じる
- 妙に甘く感じる
- 塩味だけ強く感じる
- 金属のような味がする
- 肉だけ急にまずく感じる
といった変化が起こることがあります。
こんな時に、以前と同じ味に戻そうと無理をしなくて大丈夫です。
その時に食べやすい味へ変えてしまいます。
たとえば、
肉が苦い、金属っぽい
→ 卵、豆腐、魚、乳製品など別のタンパク質に変える
金属のような味がする
→ 金属製のスプーンやフォークをプラスチック製などに変えてみる
何を食べても味がしない
→ 香辛料、だし、香味野菜、酸味などを少し加えてみる
においがつらい
→ 冷たい料理、常温の料理を選ぶ
といった工夫があります。
ただし、口内炎がある時に、レモンや酢、香辛料など刺激の強いものを使うと痛みが増すことがあります。その場合は、柔らかく、刺激の少ない食事を優先してください。
そしてもう一つ。
3食きちんと食べる必要もありません。
1回に食べられる量が少なければ、
朝食
10時のおやつ
昼食
15時のおやつ
夕食
のように、4〜6回に分けても構いません。
食欲が落ちている時には、少量の食事を回数を増やして取る方法も推奨されています。
③ 動けるようになってきた時期
食事量が戻り、家の中だけでなく外にも出られるようになってきたら、少しずつ普段の生活に近づけていきます。
抗がん剤治療中は、食事量が落ちたり運動量が減ることだけでなく、抗がん剤の副作用でも筋肉も落ちやすくなります。
この時期の目標は、「鍛える」ことではなく、「日常生活の中で動く時間を少しずつ増やす」ことです。
いきなり1万歩歩いたり、慣れない筋トレを始めたりする必要はありません。
いつもの道を早歩きする
15分で良いからウオーキングする
階段を一つ飛ばしで上がる
など、普段の生活に+αを足すくらいでOKです。
この時期に
「元気になってきたから、体力を取り戻さなければ」
と急に頑張りすぎて、逆に調子を悪くする方がいるので、注意が必要です。
食事も、ここからは「何とか食べる」段階から、少しずつ体重や筋肉を戻す食べ方に変えていきます。
肉や魚が食べにくければ、卵、豆腐、納豆、ヨーグルト、チーズ、牛乳など、食べやすいタンパク質で構いません。
1回の食事で十分に取れなければ、間食としてヨーグルトやチーズ、プリンなどを加えてもよいでしょう。
味覚障害がまだ残っている場合もあります。
そんな時は、以前と同じ食事に無理に戻す必要はありません。
食べられるものを使いながら、少しずつ量と種類を増やしていく。
を意識してください。
また、少し元気になると、
「今日は調子がいいから」
と、買い物、美容院、歯医者、外食などの予定を一気に入れてしまう方もいます。
でも、
元気になった日=完全に回復した日
ではありません。
次の日に疲れを残さないくらい、少し余力を残して動くことも、休薬期間の大切な過ごし方です。
④ 次の治療が近づいてきた時期
次の抗がん剤が近づいてきたら、単に「元気になったか」だけではなく、前回の治療からどこまで回復したかを一度振り返ってみてください。
たとえば次のような点を確認します。
- 食事量は普段のどのくらいまで戻ったか
- 水分は十分に取れているか
- 体重が大きく減っていないか
- 吐き気や食欲低下は残っていないか
- 味覚障害や口内炎はどうか
- 下痢や便秘は続いていないか
- しびれや皮膚・爪の症状は前回より強くなっていないか
- 普段の生活や外出がどの程度できるようになったか
特に重要なのは、変化を記録することです。
たとえば、しびれが完全には消えていなくても、
「前回は7日目にはほとんど気にならなかったのに、今回は次の治療直前まで残っている」
のであれば、これは重要な変化です。
同じように、
「食欲は戻ったけれど、肉の味が変でタンパク質が十分に取れていない」
「下痢は治まったけれど、まだ体重が2kg戻っていない」
といった情報も、次の治療を考えるうえで参考になります。
この時期に役立つのが、一行メモです。
たとえば、
3日目 吐き気が強い
5日目 食事半分
8日目 外出できた
10日目 食事はほぼ普段通り
14日目 しびれはまだ残る
と書いたメモを次の診察で渡すと、主治医に伝わります。
診察では、「副作用がありました」とだけ伝えるより、
いつ始まったか
いつが一番強かったか
いつ頃から改善したか
何が最後まで残ったか
を伝える方が、次回の抗がん剤の量や副作用対策を考えやすくなります。
そして、次の治療ができるかどうかは、血液検査だけでは決めません。
白血球や血小板、肝機能、腎機能などの検査結果に加えて、
食べられているか、動けているか、副作用がどこまで残っているか
を合わせて判断します。
ですから、血液検査の数値が戻っていたとしても、強いしびれや下痢、食欲不振などが続いている場合は、遠慮せず伝えてください。
逆に、
「1週間延びたら治療効果が落ちるのでは」
と不安になって、体調が戻っていないのに無理をして次の治療を受ける必要もありません。
必要であれば、もう少し休む。
抗がん剤の量を調整する。
吐き気止めや下痢止めなどを見直す。
こうした調整も、治療を安全に続けるための一部です。
次の治療を受けても大丈夫なところまで、体の余力が戻っていること
を確認してください。
ここまで、休薬期間を4つの時期に分けて、どのように過ごせばよいかを見てきました。
大切なのは、その時の体調に合わせて、
休む。
食べる。
少しずつ動く。
そして次の治療に備える。
という流れを作ることです。
一方で、休薬期間になると、
「何か特別なことをした方がいいのでは」
「免疫力を上げなければ」
「少しでも運動した方がいい」
と、かえって頑張りすぎてしまう方もいます。
でも、休薬中だからといって、何かを新しく始めたり、無理をしたりする必要はありません。
むしろ、やらなくてもいいこと、注意した方がいいこともあります。
休薬期間に「頑張らなくてもいいこと」
休薬期間になると、
「何か体にいいことをしなければ」
と、かえって頑張りすぎてしまう方がいます。
でも、休薬の目的は体を回復させて、次の治療につなげることです。
特別なことを増やす必要はありません。
免疫力を上げようとサプリを増やさない
「休薬中に免疫力を上げたい」と、サプリメントや健康食品を新しく始める方がいます。
しかし、短期間で免疫力を一気に高めるようなものはありません。
まずは、食べる、眠る、水分を取ることを優先してください。
休薬期間だからといって、抗がん剤の影響が完全に無くなっている訳ではありません。
サプリメントの中には、薬の代謝に影響したり、肝機能障害の原因になったりするものもあります。
新しく始める場合は、自己判断で始めるのではなく、必ず主治医に伝えてください。
断食や極端な糖質制限を始めない
「がんに栄養を与えたくない」と、食事量を減らしたり、糖質を極端に控えたりする人がいます。
抗がん剤治療中は筋肉が落ちやすいのに、さらに食事制限をすると筋力低下が強くなります。
休薬期間は、減らすよりも、失ったものを戻す時期と考えてください。
元気になった途端に、運動量を増やさない
体調が戻ってくると、
「今のうちに体力を戻そう」
と急に長く歩いたり、筋トレを始めたりする方もいます。
でも、いきなり治療前以上の運動はやめてください。
治療前と同程度か足りないくらいで、少し余力を残して終えるくらいの運動量がよいです。
元気な日に予定を詰め込みすぎない
体調が戻ったからと言って、これまでできなかった予定を全て詰め込んでしまう方がいます。
でも、
元気になった日=完全に回復した日
ではないので、少し余力を残しておくくらいがちょうどよいと思います。次の日に疲れを残さないくらいの予定にしておくことも、次の治療に備えるうえでは大切です。
休薬期間に必要なのは、何か特別なことを増やすことではありません。
体調に合わせて、やることを少しずつ戻していく。
そこを目指してください。
決して、焦らないこと!
休薬中のよくある質問
休薬期間中は、体調が戻ってくるにつれて、
「歯医者に行ってもいいですか?」
「旅行しても大丈夫ですか?」
「お酒は飲んでもいいですか?」
といった、普段の生活についての質問も増えてきます。
基本的には、体調が安定していれば普段の生活に少しずつ戻して構いません。
ただし、本人が元気でも白血球や血小板がまだ十分に戻っていないことがあります。迷う場合は、次の治療までの日数や血液検査の結果も含めて主治医に確認してください。
Q1.歯医者に行ってもいいですか?
虫歯の治療や歯のクリーニングなどは可能なことも多いですが、抜歯や歯ぐきから出血するような処置は注意が必要です。
白血球が少ない時期には感染、血小板が少ない時期には出血のリスクが高くなります。
また、骨転移などでデノスマブ(ランマーク)やゾレドロン酸(ゾメタ)を使用している場合は、抜歯などの前に必ず主治医と歯科医に伝えてください。
歯科を受診するときは、
「抗がん剤治療中であること」「最後に抗がん剤を受けた日」
を伝えておくと安心です。
Q2.旅行や温泉に行ってもいいですか?
体調が安定していれば、旅行に行ける方もいます。
むしろ、気分転換になることもあります。
ただし、休薬中は元気に感じていても、血液検査では白血球が下がっていることがあります。
遠出をする場合は、
- 発熱した時に受診できる場所があるか
- 必要な薬を持っているか
- 次の治療日まで余裕があるか
を考えておきましょう。
温泉も同じです。
体調がよければ入浴できますが、下痢や食欲低下などで脱水気味の時に長湯をするのは避けた方がよいでしょう。
Q3.お酒は飲んでもいいですか?
抗がん剤治療中は断酒しているひとが少なくありません。
でも、多少なら飲んでも治療に影響があることはまずありません。
ただし、これは使っている抗がん剤や肝機能、併用している薬によって変わります。
特に、
吐き気や下痢がある
水分が十分取れていない
肝機能が悪い
睡眠薬や鎮痛薬を使っている
といった場合は、控えた方がよいでしょう。
飲酒については一度主治医に確認しておくと安心です。
Q4.予防接種は受けてもいいですか?
インフルエンザや新型コロナなどの予防接種についても、抗がん剤治療中も受けることは可能です。
ただし、ワクチンの種類や抗がん剤の内容によって、適したタイミングが変わります。
次回の抗がん剤の日程も含めて必ず主治医に確認してください。
Q5.美容院や白髪染めに行ってもいいですか?
体調がよければ、美容院に行くこと自体は問題ないことが多いです。
ただし、抗がん剤によって頭皮が敏感になっていたり、皮膚炎が出ていたりする場合があります。
頭皮に赤み、かゆみ、痛み、傷がある場合には、カラーやパーマは少し待った方がよいことがあります。
頭皮や皮膚の状態も見ながらの判断となります。
Q6.仕事はいつからしていいですか?
仕事は、基本的に抗がん剤中でも続けて大丈夫です。
むしろ、自分の副作用のパターンが分かってくると、
抗がん剤後の1-2日は休む
↓
回復してきたら在宅勤務
↓
さらに戻ってきたら通常勤務
というように調整できる方もいます。
前に紹介した「一行メモ」で、自分が何日目から動けるのか分かってくると、仕事の予定も立てやすくなります。
Q7.マッサージや整体は受けてもいいですか?
マッサージは体が楽になるだけでなく、気持ち良いし気分転換にもなりますよね。
抗がん剤治療中でも休薬期間中でも基本的に受けることは問題ありません。
ただ、以下の場合には注意が必要です。
血小板が少ない
骨転移がある
血栓がある
強いむくみがある
皮膚に炎症や傷がある
場合などは、避けた方がよいことがあります。
休薬中の生活については、すべてを禁止する必要はありません。
「抗がん剤中だから、休薬期間中も何もできない」
と諦めてしまわないことです。
その時の体調と副作用、血液検査の状態を見ながら、少しずつ普段の生活に戻していけばよいと思います。
まとめ
繰り返しになりますが、抗がん剤治療中は薬を投与している日だけが「治療」のように感じるかもしれません。
でも実際には、
抗がん剤治療を受ける
↓
副作用が出る
↓
休む
↓
少しずつ食べられるようになる
↓
動けるようになる
↓
次の治療に備える
ここまで全部含めて、1つの治療です。
休薬期間に、何か特別なことをしようとするのではなく、大切なのは、
食べる。
水分を取る。
眠る。
動けるようになったら少し動く。
残っている副作用を整える。
そして、
次の治療を受けられるところまで、体の余力を戻していくこと。
白血球が少なくて治療が1週間延びたとしても、それは必要な時間です。
時には休み、回復を待つことも、治療を安全に続けるための大切な判断です。
休薬期間は、治療が止まっている時間ではなく、次の治療につなげるための時間です。













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