
HER2陽性胆道がん、一次治療からハーセプチンを追加 4剤併用で奏効率55%

濱元誠栄院長こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
胆道がん(胆管がん+胆のうがん)は非常に予後が悪く、ステージ4の5年生存率は、膵臓がんや肺がん並みに低くなっています。

ステージ4胆道がんの標準治療は
GC(ゲムシタビン+シスプラチン)療法
GC+TS-1療法
GC+キイトルーダ療法
GC+イミフィンジ療法
の4つがあります。
以前はGC療法だけでしたが、抗がん剤が効きにくいため、最近では免疫チェックポイント阻害薬を併用するようになりました。
二次治療以降は、遺伝子異常に合った分子標的薬、FGFR阻害薬(ペマジール・リトゴビ・タスフィゴ)や抗HER2薬(エンハーツ)などが考慮されます。
胆道がんの中には、乳がんや胃がんと同じようにHER2(ハーツー)というタンパクが強く発現しているタイプがあります。
これまでHER2陽性の胆道がんでは、HER2を狙った治療は主に二次治療以降しかありません。
ところが今回、
「最初の治療からHER2を狙ったらどうなるか?」
という試験結果が、2026年9月22日の『Nature Medicine』に発表されました。
それが、韓国で行われたHERBOT試験です。
日本がん対策図鑑より

4剤併用
HERBOT試験で行われた治療は、
ハーセプチン(トラスツズマブ)
+オプジーボ(ニボルマブ)
+ゲムシタビン
+シスプラチン
の4剤併用です。
役割を分けると、
- ハーセプチン:HER2を狙う分子標的薬
- オプジーボ:免疫チェックポイント阻害薬
- ゲムシタビン+シスプラチン:抗がん剤
となります。
つまり、
「HER2標的治療+免疫療法+抗がん剤」
を最初から組み合わせた、強力な治療です。
55%でがんが縮小
臨床試験の結果は、
完全奏効(CR) 1人
部分奏効(PR) 21人
奏効率(ORR) 55.0%
病勢コントロール率(DCR) 95.0%
でした。
無増悪生存期間は10.6か月
無増悪生存期間(PFS)は、
中央値10.6か月
でした。
観察期間中央値17か月の時点では、全生存期間(OS)の中央値にはまだ到達しておらず、
1年生存率は72.7%
でした。
現在の標準的な「GC+免疫チェックポイント阻害薬」と比べても、大幅に生存期間の延長が見られています。

2人は手術できるところまで縮小
もう一つ興味深い結果があります。
40人中2人では、治療によって腫瘍が縮小し、その後に根治を目的としたコンバージョン手術が行われています。
予後の悪いステージ4胆道がんでも、一次治療で腫瘍を大きく縮めることができれば、その先の治療選択肢が変わる可能性があります。
なぜ一次治療からHER2を狙うのか
HER2陽性胆道がんでは、これまでもHER2を標的とする薬の有効性が報告されてきました。
ただし、その多くは、二次治療以降の患者さんを対象としていました。
しかし、進行胆道がんでは、二次治療、三次治療まで到達できない患者さんも少なくありません。
二次治療までHER2治療を温存するのではなく、
一次治療の段階から、がんの特徴に合わせた治療を行った方がよいのではないか
HERBOT試験の大きな意味はここにあります。
HER2陽性でも、全員同じではない
今回の研究でもう一つ興味深いのは、HER2の「強さ」です。
40人のうち、
HER2 IHC 3+は25人
でした。
探索的な解析では、
HER2 3+:PFS 17.4か月
HER2 2+/ISH陽性:PFS 9.7か月
と、HER2 3+でPFSが長い傾向がみられました。
ただし人数が少なく、統計学的に確定した違いではありません。
今後は単純に、
「HER2陽性か、陰性か」
だけではなく、
どれくらい強くHER2が出ているのか
まで治療選択に関係してくる可能性があります。
4剤併用なので副作用も増える
薬を一つ追加する以上、副作用も確認しなければいけません。
グレード3以上の主な治療関連副作用は、
好中球減少 57.5%
貧血 30.0%
血小板減少 22.5%
でした。
今回の試験では新しい安全性上の問題は確認されなかったとされていますが、治療効果が高くなったとしても、それに見合うだけの利益があるのかを考える必要があります。
胆道がんだけではない「最初から多剤併用」という流れ
今回のHERBOT試験を見ていて、もう一つ注目したいことがあります。
それは、
がん治療全体で、一次治療から複数の治療法を組み合わせる動きが強くなっている
ことです。
以前は、
「まず抗がん剤を使う」
「効かなくなったら分子標的薬」
「さらに進行したら別の薬」
というように、治療を順番に使っていく考え方が中心でした。
もちろん今でもこの考え方は重要です。
しかし最近は、
がんの弱点が最初から分かっているのであれば、最初から複数の方向から攻める
という治療が増えてきています。
胃がんでは、すでに同じような治療が行われている
HERBOT試験にかなり近い考え方が、HER2陽性胃がんです。
HER2陽性の進行胃がんでは、
抗HER2薬
+免疫チェックポイント阻害薬
+抗がん剤
という組み合わせがすでにPhase 3試験で検証されています。
KEYNOTE-811試験では、トラスツズマブ+化学療法にペムブロリズマブを追加することで、最終解析で全生存期間中央値が20.0か月対16.8か月となりました。効果は特にPD-L1 CPS 1以上の集団で示されています。

つまり、
HER2標的薬+免疫療法+抗がん剤
というHERBOTと同じ発想は、すでに胃がんでは先行しています。
大腸がんでも「遺伝子変異+抗がん剤」
BRAF V600E変異のある転移性大腸がんでも大きな変化が起きています。
BREAKWATER試験では、
ビラフトビ
+セツキシマブ
+mFOLFOX6
を一次治療から使用しました。
つまり、
BRAF阻害薬+EGFR抗体+抗がん剤
です。
標準治療と比較して、
PFS中央値
12.8か月 vs 7.1か月
OS中央値
30.3か月 vs 15.1か月
と改善しました。

肺がんでも単剤から併用へ
EGFR遺伝子変異陽性の肺がんでは、長い間、
EGFR阻害薬を一剤で使用する
という考え方が中心でした。
しかしFLAURA2試験では、
タグリッソ+プラチナ製剤+ペメトレキセド
という一次治療が、オシメルチニブ単剤よりも全生存期間を延長しました。
OS中央値は、
47.5か月 vs 37.6か月
でした。
一方で、グレード3以上の有害事象は、
70% vs 34%
と併用群で明らかに増えています。
ここに、多剤併用療法のメリットとデメリットが非常によく表れています。
またEGFR変異肺がんでは、アミバンタマブ+ラゼルチニブという2剤併用でも、オシメルチニブとの比較で生存期間の改善が報告されていますが、グレード3以上の有害事象は80%対52%でした。
効き目を強くする代わりに、副作用も増える。
今後のがん治療では、このバランスがますます重要になります。
乳がんでも「最初から強いHER2治療」へ
HER2陽性乳がんでも同じ流れがあります。
DESTINY-Breast09試験では、一次治療として、
エンハーツ+パージェタ
が従来のTHP療法と比較され、病気の進行または死亡のリスクを有意に低下させました。奏効率は85.1%でした。
詳しくは、過去ブログを参照

これも、
「まず従来治療を行って、効かなくなったら強い薬を使う」
のではなく、
効果の高い薬を一次治療から使う
方向への変化と見ることができます。
これからは「薬を増やす」のではなく「弱点を組み合わせて狙う」
こうして見ると、これから増えていくのは、
抗がん剤+免疫療法+HER2標的薬
抗がん剤+BRAF阻害薬+EGFR抗体
EGFR阻害薬+抗がん剤
といったように、
異なる仕組みの薬を、がんの特徴に合わせて組み合わせる治療
です。
私はここが重要だと思います。
昔の多剤併用療法は、
「作用機序の違う抗がん剤を何種類か組み合わせる」
ことが中心でした。
これからは、
抗がん剤
+分子標的薬
+免疫療法
+ADC
など、まったく異なる治療手段を組み合わせる時代になっていくでしょう。
「4剤、5剤と増やせばよい」わけではない
一方で、多剤併用には明らかな問題があります。
薬が増えれば、
副作用も増える
治療費も増える
通院や点滴の負担も増える
可能性があります。
しかも、4剤を使用して効果が良かったとしても、
本当に4剤すべてが必要だったのか
という問題も残ります。
3剤でも同じ効果が得られたのかもしれません。
あるいは、最初の数か月だけ4剤を使って腫瘍を減らし、その後は2剤に減らしてもよいかもしれません。
実際HERBOT試験でも、ゲムシタビン+シスプラチンは基本的に一定期間使用し、その後はトラスツズマブとニボルマブを継続できる設計になっています。
したがって、これから重要になるのは、
何剤使うか
だけではなく、
誰に、何を組み合わせ、いつ減らすか
だと思います。
遺伝子検査の意味も変わってくる
この流れが進めば、遺伝子検査やバイオマーカー検査を行う意味も変わってきます。
これまでは、
「標準治療が効かなくなったとき、次の薬を探すため」
に遺伝子パネル検査を行う場面も少なくありませんでした。
しかし分子標的薬が一次治療に入ってくれば、
最初の治療を始める前に、そのがんの特徴をできるだけ把握する
ことがより重要になります。
肺がんではEGFRやALKなどを調べてから一次治療を決めることがすでに当たり前になっています。
今後は胃がん、胆道がん、大腸がん、乳がんなどでも、
「何がんか」だけではなく、「そのがんにどんな異常があるのか」
によって一次治療がさらに細かく分かれていく可能性があります。
今回のHERBOT試験をどう見るか
「奏効率55%」
という数字だけでも目を引きます。
しかし、この研究で私がそれ以上に注目しているのは、
HER2をいつ調べ、HER2治療をいつ使うのか
という部分です。
これまで、
治療が効かなくなってから使っていた薬を、最初から使う。
そして、
抗がん剤だけではなく、分子標的薬や免疫療法を最初から組み合わせる。
HERBOT試験は、胆道がんでもこの流れが始まったことを示す研究だと思います。
もちろん、40人のPhase 1b/2試験ですから、現時点でこの4剤併用を標準治療と呼ぶことはできません。
しかも薬が増えるほど副作用も増えます。
今後のがん治療は、
がんの特徴を詳しく調べ、必要な患者さんにだけ必要な薬を最初から組み合わせる。
そして十分に効いた後には、
減らせる薬は減らす。
そんな治療に向かっていくのではないかと思います。
HERBOT試験は、単なる胆道がんの4剤併用試験ではなく、
これからの個別化された多剤併用療法を考える一つのモデル
としても注目したい研究です。
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