がん緩和ケアは何をする?最新の知見、麻薬、終末期看護をわかりやすく

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濱元誠栄院長

皆さまこんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。

今回のテーマは「緩和ケアは末期がんだけのもの?体と心のつらさを取り除く緩和ケア」です。

「末期がんの身体的・精神的なつらさと治療」「早期から行うべき緩和ケア」「緩和ケアについてよくある質問」についてお話していきます。

目次

がんの痛みと、具体的な対処法

末期がんと診断された患者さんとお話をしていると「死」に対する不安もですが、「死に至るまでの過程で、痛みに苦しむのではないか」という漠然とした不安が強いことが多いです。

がんと言えば “壮絶な闘病生活で亡くなる”といったイメージがあるのかもしれません。

では実際、がんによる痛みとはどのようなものでしょうか。がんの患者さんの半数以上は末期がんよりも前の進行がんの段階から痛みが出現します。

その痛みの多くが一日中続く持続性の痛みで、日常生活に支障をきたします。

がんの痛み、がん性疼痛の治療は基本的に薬が中心となりますが、放射線治療、ブロック注射などを併用することもあります。

薬による痛みの治療には、①麻薬性鎮痛薬②非麻薬性鎮痛薬③鎮痛補助薬の3種類があります。

①麻薬性鎮痛薬

麻薬性鎮痛薬モルヒネをはじめとした、多くの人が末期がんでイメージする薬です。最も強力な鎮痛薬です。

昔は内服と座薬、点滴しかありませんでしたが、貼付タイプの医療用麻薬が登場し、腸閉塞などで薬を内服できない際などに用いられます。

また最近ではお腹などの皮下に持続注射をする機械も登場し、自宅にいながら24時間痛みをコントロールすることが可能になっています。

医療用麻薬の主な副作用は眠気、吐き気、便秘です。

眠気は開始後すぐに見られますが、一時的で数日で自然に良くなることが多いです。

吐き気に対しては吐き気止め、便秘に対しては下剤で対応します。

急に大量に使用すると幻覚や意識障害、呼吸が止まったりする可能性がありますが、医療者の指導の下で適切な使い方をすればそのようなことは起こりません。

②非麻薬性鎮痛薬

非麻薬性鎮痛薬には解熱鎮痛薬と呼ばれる、アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェン、ロキソニン、ボルタレンなどがあります。

これらよりは強いけど、モルヒネなどの麻薬よりは弱い中間的な存在に、コデイントラマールといった薬剤も使用されます。鎮痛効果は麻薬に近いけど、麻薬のような副作用が少ないため、中等度の痛みにはよく使用されます。

③鎮痛補助薬

神経の痛みは麻薬性鎮痛薬を使ってもなかなか完全には取れないため、鎮痛薬以外の抗うつ薬抗てんかん薬筋弛緩薬ステロイドなどを併用することがあります。ステロイドは骨転移による痛みにもよく使用されます。

がんの痛みを我慢する必要はない

このように痛みの治療は発展してきましたが、現実には今も「がんの痛みは仕方ない」と考え我慢してしまう患者さんは少なくありません。

「少しくらいの痛みは我慢する」という日本人の昔からの考えがあるから、あるいはモルヒネなどの医療用麻薬に対して良くないイメージがあり我慢してしまうのかもしれません。

また「痛みの治療をすると、がんの治療に悪い影響を与えるかもしれない」と考えて我慢してしまう患者さんもいます。

しかし、がんの痛みは我慢しても良いことは一つもありません。痛みが徐々に強くなっていくため、日常生活が妨げられるようになり、イライラしたり治療に対するやる気を失ったりすることもあります。

また、痛みで食事が摂れなくなり栄養状態が悪くなると、がんの治療自体が継続できなくなります。

私が医者になった20年ほど前は医療者は治療優先で、がんの痛み治療に対して不勉強であったり、また鎮痛薬の使い方や副作用への対策が不十分だったりと、医療者側の問題も大きかったです。

今ではがん性疼痛に対する教科書も増え、疼痛補助薬など多様な薬の使い方にも慣れてきました。ある緩和ケア病棟の調べでは、強い痛みを感じる割合は入院時よりも亡くなる直前の方が減っているという結果でした。副作用のコントロールをしながら、痛みを緩和していくことが可能なのです。

がんの「悪液質(あくえきしつ)」への対応も進んでいる

末期がんのもう一つのイメージに「やせ細って弱っていく」があります。

がんが進行すると、食欲が低下する、筋肉量が減る、全身が衰弱するという症状が見られるようになります。これらの症状はがん細胞が生み出す物質によって起こり、この状態を悪液質(あくえきしつ)と言います。

悪液質は肺がんや膵臓がん、胃がん、大腸がんで多く見られます。以前は悪液質になると食べられなくてやせ細っていくのをただ見守るしかありませんでした。

しかし2021年に悪液質の治療薬が登場します。この治療薬は成長ホルモンの分泌を促し、食欲を増進させたり、筋肉を成長させたりする働きがあります。3か月内服したデータでは65%の患者さんで食欲が増進し、平均で1.4kg体重が増えたという結果でした。

また3か月後に全身状態が改善したのが15%、状態を維持できたのが67%という結果でした。まだ保険適応となるがん種は限られていますが、末期がんの患者さんでも食欲や全身状態が改善する可能性があります。

現在、保険適応となっているがんは、非小細胞肺がん、胃がん、膵臓がん、大腸がん

がんはメンタルケアも大切

末期がんに対する緩和ケアについて、痛みや食欲低下などの身体的なつらさのお話をしましたが、精神的・社会的なつらさに対しても緩和ケアが行われます。

がんによる精神的なつらさには、死に対する不安や恐れ、落ち込み、うつ状態、いらだち、孤独感などがあり、がん患者さんのほとんどが感じる問題です。実は身体的なつらさよりも、精神的なつらさを訴える患者さんの方が多いと言われています。

これら精神的なつらさは、がんと診断された時から起こり始めます。精神的なつらさが強かったり長く続いたりすると適応障害うつ病といった病に発展することがあります。

適応障害とは、がんに対する精神的なつらさで日常生活に支障をきたしている状態のことで、うつ病の前の段階のことを言います。具体的には不安で眠れなかったり、仕事が手に付かなかったり、人と会うのがおっくうになって引きこもったりといった症状が見られます。

うつ病は適応障害よりもさらに精神的なつらさが強く、何事も手に付かないような落ち込みが2週間以上続き、日常生活を送ることが難しい状態です。不眠、食欲低下、やる気の低下などの症状が起き、時には「消えていなくなってしまいたい」といった否定的な感情を持つ人もいます。

国立がんセンターの乳がん患者さんを対象にした調査では、初発の場合で20%、再発の場合は40%以上の患者さんが、適応障害やうつ病の症状を訴えていました。がん患者さん以外で、このような高い確率で適応障害やうつ病が見られることはありません。

濱元誠栄院長

ハイリスクであるがん患者さんの精神的なつらさに気づいてあげて、いち早くカウンセリングや薬物治療につなげることが緩和ケアと言えます。

緩和ケアは早期から行われる流れに

昔の緩和ケアは「治癒を目的とした治療が有効でなくなった患者に対するケア」と定義されていました。しかし、それだと診断時から起こる精神的なつらさには対応できません。

また、患者さんは診断時から痛みを訴えていたり、食欲が低下し体重が減少していたりすることがあり、やはり治療終了後からの緩和ケアでは遅すぎると考えられるようになってきました。

今の緩和ケアの定義は「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対するケア」となっており、緩和ケアを始める時期は診断時から、また家族も含めたケアが重要だと言われています。

肺がん患者を対象としたアメリカの研究では、診断時から緩和ケアを行うことで生存期間が延びたという結果も出ています。また、この研究では診断時から緩和ケアを行ったことで、うつ病の発症が半分になっていました。生活の質が低下したり気分が落ち込んだりすると生存期間が短縮するという研究があるので、身体的・精神的なつらさの緩和によって生存期間が延びたのではと推察されます。

国はすべての患者さんに早期からの緩和ケアを行うよう勧めていますが、緩和ケアの担い手不足や、緩和ケア=末期がんになってから行うものというイメージの問題があり、現実には進んでいません。

濱元誠栄院長

今後、これらの問題が解決し、がんと診断されたすべての患者さんが、早期から緩和ケアを受けられるようになって欲しいです。

最後のまとめです。

  1. 緩和ケアは治療が終わってから行うものではなく、診断と同時に始めるのが理想です。
  2. 緩和ケアは身体的な痛みだけでなく、精神的なつらさも緩和します。
  3. 早期から緩和ケアを行うことで、生存期間が延びる可能性がある。

緩和ケアについてのよくある質問

中毒になるのが怖くて、痛いけど医療用麻薬は使いたくないです。麻薬中毒になることがあるのでしょうか。

適切な使用法であれば、中毒になることはありません。

麻薬で寿命が縮まると聞きました。本当でしょうか。

不適切な使用をすると呼吸が抑制されて、死期を早める可能性がありますが、通常はそんなことはありません。

麻薬は一度使うと止められないの?

抗がん剤などが効いて痛みが軽くなれば、減量したり中止したりすることがあります。

症状が軽くても麻薬を使っていいの?

強い痛みの場合に使用するもので、軽い痛みの場合には非麻薬性鎮痛薬が用いられます。

ターミナルケアと緩和ケアは一緒の意味ですか?

ターミナルケアは、治療が終了した人が残りの人生を心穏やかに過ごせるようにするためのケアのことです。昔の緩和ケアの定義に似ています。

ホスピスって、緩和ケア病院のことですか?

本来、ホスピスは施設ではなくケアのことを指します。しかし、日本では一部の緩和ケア病院をホスピスと呼んでいます。

がんの人以外も緩和ケアを受けられますか?

緩和ケアはがん以外も対象としています。

診断された時に「緩和ケア外来も行きますか?」と言われショックでした。もう助からない状態なのでしょうか。

緩和ケア=末期と受け止められたのでしょうか。今は診断時から緩和ケアを行うのが理想と言われているので、それで勧められたのだと思います。

通院中の病院に緩和ケアがありません。緩和ケアを受けたい場合には、誰に聞いたらよいですか?

医師や看護師、ケースワーカーさんなどに尋ねてみてください。

緩和ケアというと、もうダメなイメージがあるので、まだまだ受けたくないです。でも、受けた方が良いですか?

無理に受けるものではありませんが、受けることで不利益になることは少ないです。イメージにとらわれず、まずは話を聞いてみたり調べたりしてみてください。

がんと診断され、精神的にまいっています。安定剤を飲んだら、がんに悪いとかないですか?

影響はないと思います。緩和ケア外来か腫瘍精神科に相談してください。

濱元誠栄院長

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この記事を書いた人

1976年宮古島市生まれ。宮古島市立久松中学から鹿児島県のラ・サール高校に進学。鹿児島大学医学部を経て沖縄県立中部病院で研修医として勤務。杏林大学で外科の最先端医療を学んだのち再び沖縄県立中部病院、沖縄県立宮古病院、宮古徳洲会病院に外科医として勤務。2011年9月に上京しRDクリニックで再生医療に従事した後に、18年7月にがん遺伝子治療を専門とする銀座みやこクリニックを開院。

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