
【医師が解説】前立腺がん手術後のPSA再上昇…微小転移と今後の治療法

濱元誠栄院長こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
産経新聞のがん電話相談に前立腺がんのこんな質問がきていました
前立腺がん術後に自費検査で転移を発見、放射線治療したのに…PSA再上昇で再発
70代後半の男性、前立腺がんの手術を受けた数年後にPSAが少しずつ上がってきた。
PSMA-PETという感度の高い検査によって、従来のCTでは見つからなかった小さな転移を発見し、放射線治療を行った。
しかし、再度PSAが上がってきたというものです。
今回は、前立腺がんの「PSA再上昇」と、その後の治療について解説します。
手術後、数年間はPSAが低かった
70代後半の男性患者さんは、
2021年に
- PSA:9
- グリソンスコア:8
- CT・骨シンチで明らかな転移なし
という前立腺がんが見つかりました。
グリーソンスコア8というのは、比較的悪性度の高い前立腺がんです。
その年の年末にロボット支援下前立腺全摘除術を受けました。
手術後の病理検査では、がんは前立腺内にとどまっていたようなので、おそらくステージ1 or 2。
手術で根治と考えられ、経過観察のみとなったようです。
PSAは低い状態が続いていましたが、手術から約4年後。
PSAが
0.01 → 0.5
へ上昇しました。
前立腺を取ったのに、なぜPSAが上がる?
PSAは「前立腺特異抗原」と呼ばれる、前立腺組織でのみ作られる物質です。
前立腺をすべて切除すると、PSAを作る組織もほぼなくなるため、通常PSAは非常に低い値になります。
ところが、そのPSAが再び上昇してきました。
これは、
「体のどこかに前立腺がん細胞が残っていて、増えてきている可能性がある」
ことを意味します。
一般に、前立腺全摘後にPSAが再上昇するものの、CTでは病変が見つからない状態を生化学的再発(PSA再発)と呼ばれます。
CTに何も映っていなくても、がん細胞が存在する可能性があるという微妙な状態です。
これまでは、CTで映るようになるまで様子を見るしかありませんでしたが、今回は「PSMA-PET」という検査を行いました。
PSMAは前立腺がんの表面に現れるたんぱく質で、PSMA-PETは「前立腺がん細胞に目印をつけて、全身を探す検査」です。
PSMA-PETの結果
骨盤内リンパ節に約7mmの転移
が見つかりました。
通常のCTでは見つけにくい小さな病変が見つかりました。
見つかったリンパ節に放射線治療
この患者さんは、PSMA-PETで見つかった骨盤内リンパ節に対して放射線治療が行われました。
その結果、リンパ節転移は縮小しました。
しかし、その後、
PSA 0.48 → 0.81
と再び上昇してきました。
「転移を治療したのに、なぜ?」と疑問に思われています。
PSMA-PETでも「すべてのがん」が見えるわけではない
PSMA-PETは非常に感度の高い検査ですが、万能ではありません。
例えば、
- 数mmにも満たない小さながん
- がん細胞の数が少ない病変
- PSMAの発現が少ないがん
などは、画像に映らないことがあります。
したがって、
「PSMA-PETで1か所しか見えない=がん細胞が1か所にしか存在しない」
とは限りません。
今回のケースでは、
- PSMA-PETで骨盤内リンパ節転移を発見
- その部分に放射線治療
- リンパ節は縮小
- それでもPSAが再上昇
という経過をたどっています。
この場合、
PSMA-PETにも映らない微小ながん細胞が、別の場所に存在している可能性
を考えます。
「画像に映らないがん」をどう治療するのか?
画像に見える病変だけを放射線などで治療する方法は、病変が少ない場合には非常に魅力的です。
しかし、体のどこかに画像では確認できない微小ながん細胞が存在すると考えられる場合には、
全身に作用する治療が必要になります。
前立腺がんで、その中心となるのがホルモン療法です。
前立腺がんは男性ホルモンを利用して増える
多くの前立腺がん細胞は、男性ホルモン(アンドロゲン)を利用して増殖します。
そこで男性ホルモンの働きを抑えると、前立腺がんの増殖を抑えることができます。
基本となるのが、ADT(アンドロゲン除去療法)です。
男性ホルモンの量を大きく低下させる治療です。
さらに、がんの広がり方などによっては、ARSI(アンドロゲン受容体経路阻害薬)と呼ばれる薬を組み合わせます。
代表的な薬には、
- アパルタミド(アーリーダ)
- エンザルタミド(イクスタンジ)
- アビラテロン(ザイティガ)
- ダロルタミド(ニュベクオ)
などがあります。
遠隔転移がある場合は「治療を強くする」ことも
もし骨や遠隔リンパ節などへの転移が確認された場合には、現在ではADTだけではなく、ADT+ARSIによる治療が重要になっています。
患者さんの状態や転移量などによっては、
ADT+ARSI+ドセタキセル
という3剤を組み合わせる「トリプレット療法」が検討されることもあります。
前立腺がんの薬物療法は、この10年ほどでかなり大きく変化してきました。
PSAは「値」だけでなく「上がる速さ」が重要
今回のケースでもう一つ注目したいのが、PSAが上昇するスピードです。
PSAが、0.1 → 0.2 → 0.4 → 0.8のように短期間で増加している場合と、
0.1 → 0.12 → 0.14と何年もかけてゆっくり上昇している場合では、意味が異なります。
前立腺がんでは、PSA doubling time(PSA倍加時間)つまり、PSAが2倍になるまでどのくらいかかるかが、がんの活動性を考える一つの重要な指標になります。
短期間でPSAが上昇する場合には、より慎重な対応が必要です。
今回のケースでも短期間にPSAが上昇しているため、ホルモン療法の開始が勧められています。
「PSAが低いから大丈夫」とも限らない
今回のPSAは0.81です。
一般の健康診断であれば、「PSA 0.81なら低いのでは?」と思うかもしれません。
しかし、前立腺全摘後は話が違います。
前立腺そのものを摘出しているため、本来PSAは極めて低くなるはずです。
したがって、前立腺全摘後では、PSAの絶対値だけではなく「再び検出されていること」と「上昇の仕方」が重要になります。
この点はぜひ知っておいてほしいと思います。
まとめ
前立腺がんの手術後では、PSAは非常に重要な「がんのセンサー」になります。
今回のケースから知っておきたいのは、
- 前立腺全摘後のPSA再上昇は再発のサインになり得る
- CTで転移が見えなくても、微小ながん細胞が存在することがある
- PSMA-PETは小さな転移を発見できる非常に有用な検査
- ただしPSMA-PETでも、すべての微小転移を見つけられるわけではない
- 見えている病変を放射線治療しても、PSAが再上昇することがある
- PSAは数値そのものだけでなく「上昇する速度」も重要
- 再発・転移した前立腺がんでは、ADTやARSIなどの全身治療が重要になる
という点です。
前立腺がんは比較的ゆっくり進行するものも多い一方、グリーソンスコアが高くPSAの上昇が速い場合には、より積極的な治療が必要になることがあります。
「画像ではほとんど見えない。でもPSAは上がっている」
この時期にどう対応するかが、前立腺がん治療では非常に重要です。













コメント