抗がん剤の吐き気対策に精神病薬が効く!
こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
アメリカのASCO(米国臨床腫瘍学会)に相当する、世界でも最大規模のがん学会にESMO(欧州臨床腫瘍学会)というのがあります
先日行われたESMOで、日本からのこんな発表がありました
HER2陽性/低発現の乳がんでエンハーツを使用する際に、遅発性嘔吐という副作用が問題となります
それを抑えるために、標準治療に抗精神病薬であるオランザピンを併用した方が、嘔吐を完全に抑制する割合が高くなるというものです
指標となっている嘔吐完全制御割合というのは、「1日1回も吐き気がなかった割合」のことを言います
エンハーツは中等度催吐性薬剤(吐き気・嘔吐を催す割合が30-90%)となっており、高い確率で症状がでます
それを抑えるために、標準的な2剤よりもオランザピンを併用した方が良いという結果です
制吐薬について気にされている人は少ないと思うので解説します
抗がん剤の副作用の代表が「吐き気・嘔吐」です
吐き気は、吐き気止め(制吐薬)で対応するしかないのですが、現在は制吐薬の種類も増え、昔よりはコントロールできるようになってきました
制吐薬の歴史を見てみると
1980年代 ドパミン受容体拮抗薬
ナウゼリン/プリンペラン
(処方例)
・デキサメタゾン
・ナウゼリン/プリンペラン
1990年代 第一世代5-HT3受容体拮抗薬
カイトリル(グラニセトロン)
(処方例)
・デキサメタゾン注
・カイトリル(グラニセトロン)注
・ナウゼリン/プリンペラン
私は医者になった頃は上記の組み合わせでしたが、吐き気を訴える人はまだ多く、特に遅発性の症状に対しては効果が低かったです
その後登場したのがこちら
2009年 NK1受容体拮抗薬
イメンド(アプレピタント)内服
2011年 NK1受容体拮抗薬
プロイメンド(ホスアプレピタント)注
(処方例)
・デキサメタゾン
・カイトリル(グラニセトロン)
・イメンド/プロイメンド(アプレピタント/ホスアプレピタント)
NK1受容体拮抗薬の登場で、吐き気・嘔吐の制御率が84%まで上昇しました
そして次に登場したのが、こちら
2010年 第二世代5-HT3受容体拮抗薬
アロキシ(パロノセトロン)注
(処方例)
・デキサメタゾン
・アロキシ(パロノセトロン)
・イメンド/プロイメンド(アプレピタント/ホスアプレピタント)
長時間作用型の第二世代5-HT3受容体拮抗薬アロキシが、遅発性の吐き気・嘔吐に効果を発揮しました
そして今回のタイトルにもなった抗精神薬が登場します
2017年 抗精神病薬
ジプレキサ(オランザピン)内服
(処方例)
・デキサメタゾン
・アロキシ(パロノセトロン)
・イメンド/プロイメンド(アプレピタント/ホスアプレピタント)
・ジプレキサ(オランザピン)
ジプレキサが遅発性の吐き気・嘔吐の制御率をさらに13%アップしました
そして、NK1受容体拮抗薬にも長時間作用型が登場します
2022年 長時間作用NK1受容体拮抗薬
アロカリス(ホスネツピタント)
(処方例)
・デキサメタゾン
・アロカリス(ホスネツピタント)
・イメンド/プロイメンド(アプレピタント/ホスアプレピタント)
・ジプレキサ(オランザピン)
この4剤併用療法はシスプラチン、AC療法などの高度催吐制のある薬剤の場合の処方例で、程度が軽い薬剤などの場合には3剤や2剤、もしくは1剤だけという場合もあります
今回のエンハーツは、中等度なのでアルゴリズムだとこんな感じです
オランザピンは抗精神病薬なので使用をためらう医師もいますが、今回の臨床試験で効果が高いことが分かったので、今後使用が増えるかもしれません
吐き気・嘔吐は患者さんにとっては心を削られる副作用なので1回も起こらないようにして欲しいのですが、関心を持たない医師が多いのが現状です
しっかり制吐薬を使って、吐き気の無い抗がん剤生活を目指して欲しいです
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