
難治性の卵巣明細胞がんに奏功する新薬「ハイツエキシン」

濱元誠栄院長こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
2026年7月28日、卵巣明細胞がんの新たな治療薬である「ハイツエキシン錠10mg」が発売開始となりました。
ハイツエキシンは、内服のPI3Kα阻害薬です。
2026年3月23日に、以下の適応で承認されています。
がん化学療法後に増悪したPIK3CA遺伝子変異を有する卵巣明細胞がん
これまで治療選択肢が限られていた卵巣明細胞がんに対して、がん細胞の遺伝子変異を標的とする新たな分子標的治療が登場したことになります。
ハイツエキシンとは
ハイツエキシンは、がん細胞の増殖に関係するPI3Kαというタンパク質の働きを選択的に抑える薬です。
PI3Kαは、細胞の増殖や生存に関係するシグナル伝達経路の一つです。
PIK3CA遺伝子に変異が起こると、この経路が過剰に活性化し、がん細胞の増殖を促すことがあります。
ハイツエキシンは、このPI3Kαの働きを阻害することで、がん細胞の増殖を抑えると考えられています。
通常は、ハイツエキシン40mgを1日1回、空腹時に内服します。
卵巣明細胞がんは抗がん剤が効きにくい
卵巣がんには、漿液性がん、類内膜がん、明細胞がんなど、いくつかの組織型があります。
このうち卵巣明細胞がんは、日本を含む東アジアで比較的多くみられるタイプです。
明細胞がんは抗がん剤が効きにくいとされ、初回のTC療法の奏効率は20~50%とされています。
進行・再発した場合には、さらに奏効率が10%未満まで低下します。
そのため、卵巣明細胞がんの特徴に合わせた新しい治療薬の開発が求められていました。
PIK3CA遺伝子変異を標的とする治療
卵巣明細胞がんでは、PIK3CA遺伝子変異が比較的高い頻度で認められます。
報告によって差はありますが、卵巣明細胞がんの約30~40%にPIK3CA遺伝子変異がみられるとされています。
ハイツエキシンは、このPIK3CA遺伝子変異を有する患者さんを対象とした治療薬です。
つまり、すべての卵巣明細胞がんに使用できるわけではありません。
治療前に遺伝子検査を行い、PIK3CA遺伝子変異があることを確認する必要があります。
第Ⅱ相試験で奏効率34.5%
ハイツエキシンの承認根拠となったのが、日本と中国で行われた国際共同第Ⅱ相試験「CYH33-G201試験」です。
この試験では、白金製剤を含む化学療法を受けた後に増悪した、PIK3CA遺伝子変異陽性の卵巣明細胞がん患者に対して、ハイツエキシンが投与されました。
画像評価が可能だった84人の結果は、以下のとおりです。
- 完全奏効:0人
- 部分奏効:29人
- 安定:35人
- 進行:10人
- 評価不能など:10人
腫瘍が一定以上縮小した患者さんの割合を示す奏効率は34.5%でした。
また、腫瘍が縮小した患者さんと、一定期間増大しなかった患者さんを合わせた病勢コントロール相当の割合は、76.2%でした。
従来の治療では奏効率が8%未満とされてきた患者群において、約3人に1人で腫瘍縮小が確認されたことは、臨床的に重要な結果といえます。
試験結果をどう考えるか
ハイツエキシンの奏効率34.5%という結果は、治療が難しい卵巣明細胞がんにおいて期待できる数字です。
一方で、この試験はハイツエキシンだけを投与した単群の第Ⅱ相試験です。
既存の抗がん剤と直接比較した第Ⅲ相試験ではありません。
そのため、従来治療と比べて生存期間をどの程度延長するのか、長期的な効果がどのくらい続くのかについては、今後の臨床データを確認していく必要があります。
「有望な治療薬」であることと、「すべての患者さんに高い効果が得られる」ことは同じではありません。
適応となる患者さんを遺伝子検査によって選び、副作用を管理しながら使用することが重要です。
ハイツエキシンの対象となる患者さん
ハイツエキシンは、主に以下の条件を満たす患者さんが対象となります。
- 卵巣明細胞がんと診断されている
- 白金製剤を含むがん化学療法を受けたことがある
- 化学療法後に病気が増悪している
- PIK3CA遺伝子変異が確認されている
現時点では、卵巣明細胞がんの初回治療や、手術後の再発予防目的で使用する薬ではありません。
また、PIK3CA遺伝子変異が確認されていない患者さんへの有効性や安全性も確立されていません。
PIK3CA遺伝子変異はどのように調べる?
ハイツエキシンを使用するためには、治療前に承認された検査を用いて、PIK3CA遺伝子変異を確認する必要があります。
承認されたコンパニオン診断薬には、AmoyDx PIK3CA変異検出キットなどがあります。
過去に行ったがん遺伝子パネル検査や組織検査で、すでにPIK3CA遺伝子変異が判明している場合もあります。
ただし、過去の検査結果をそのまま治療選択に利用できるかどうかは、検査方法や検体、承認された診断薬との関係によって異なります。
実際にハイツエキシンの対象となるかは、治療を受けている医療機関での確認が必要です。
主な副作用
ハイツエキシンは新しい治療選択肢として期待されますが、副作用の管理が必要な薬でもあります。
第Ⅱ相試験では、主に以下の有害事象が報告されました。
- 高血糖
- 発疹
- 口内炎
- 悪心
- 下痢
- 体重減少
- 食欲低下
- 血小板減少
なかでも特に注意が必要なのが、高血糖です。
試験では、高血糖が高い頻度で認められました。
PI3Kαのシグナルは糖代謝にも関係しているため、PI3Kαを阻害すると血糖値が上昇することがあります。
治療前と治療中には、空腹時血糖値やHbA1cなどを定期的に確認し、必要に応じて糖尿病治療薬の使用や休薬、減量を検討します。
糖尿病や耐糖能異常がある患者さんでは、特に慎重な管理が必要です。
重篤な副作用にも注意が必要
ハイツエキシンでは、以下のような重篤な副作用にも注意が必要です。
- 重度の高血糖
- 糖尿病性ケトアシドーシス
- 間質性肺疾患
- 重い皮膚障害
- 血小板減少
- 重度の下痢
- 体液貯留
- 感染症
- QT間隔延長
息苦しさや空咳、急激な倦怠感、意識状態の変化、広範囲の発疹、強い下痢などがみられた場合には、早めの対応が必要です。
ハイツエキシンは、副作用を適切に管理できる医療機関で使用することが前提となります。
卵巣明細胞がん治療における大きな一歩
ハイツエキシンの登場が持つ意味は、単に抗がん剤が一つ増えたということだけではありません。
これまで治療が難しかった卵巣明細胞がんに対して、PIK3CA遺伝子変異というがんの特徴を調べ、その結果に基づいて治療薬を選べるようになったことに大きな意義があります。
卵巣明細胞がんは、従来の化学療法が効きにくい一方で、PIK3CA遺伝子変異など、特有の分子異常を持つことが知られています。
今回の承認は、卵巣明細胞がんに対する治療が、組織型だけでなく遺伝子変異に基づいて選択される時代に進んだことを示しています。
まとめ
ハイツエキシンは、PIK3CA遺伝子変異を有する卵巣明細胞がんに対する、新しい経口の分子標的治療薬です。
承認の根拠となった第Ⅱ相試験では、奏効率34.5%、病勢コントロール相当の割合76.2%という結果が示されました。
従来の治療では効果が得られにくかった患者さんに、新たな治療の可能性が生まれたことは大きな前進です。
一方で、すべての卵巣明細胞がんに使用できるわけではなく、治療にはPIK3CA遺伝子変異の確認が必要です。
高血糖や発疹、口内炎、下痢などの副作用も多く、慎重な管理が欠かせません。
今後は、実際の診療における治療効果や効果の持続期間、生存期間への影響など、さらに多くのデータが蓄積されていくことが期待されます。
卵巣明細胞がんが再発・増悪した場合には、病理組織型やこれまでの治療歴に加えて、PIK3CA遺伝子変異を含む遺伝子検査の結果を確認することが、治療選択を考えるうえで重要になってきます。













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