プラチナ抵抗性卵巣がんに新選択肢?奏効率62%の新薬ADCを徹底解説

濱元誠栄院長

こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。

進行した卵巣がんでは、カルボプラチンなどのプラチナ製剤が治療の中心となります。

主として使われるメニューは、TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)です。

しかし、再発を繰り返すうちにプラチナ製剤が効きにくくなると、治療の選択肢は一気に限られてきます。

図にするとこんな感じです。

こうした「プラチナ抵抗性卵巣がん」に対する新しい治療薬として注目されているのが、モセルタタグ レゼテカン(舌を噛みそうな名前、、、)です。

名前はかなり覚えにくいのですが、2026年に発表された初期の臨床試験では、腫瘍が縮小した患者さんの割合を示す奏効率が62%に達しました。

プラチナ抵抗性となった場合、従来の抗がん剤単剤による奏効率は、一般に10~20%程度とされています。

もちろん、異なる試験の数字を単純に比較することはできません。それでも、この62%という数字が注目を集めるのは当然でしょう。

がん細胞に抗がん剤を届けるADC

モセルタタグ レゼテカンは、B7-H4を標的とする抗体薬物複合体(ADC)です。

ADC(抗体薬物複合体)といえば、乳がんや胃がんで目覚ましい成果を上げている「エンハーツ」などと同じ仕組みの薬です。

がん細胞の表面にある特定の目印(タンパク質)にだけくっつく「抗体」に、強力な「抗がん剤」を結合させた、いわば“がん細胞狙い撃ちミサイル”のようなものです。

ADCについては、先日のトリプルネガティブ乳がんの動画でも解説していますので、ぜひご覧ください。

第1相試験で奏効率62%

2026年の米国婦人科腫瘍学会で、国際共同第1相試験「BEHOLD-1」の結果が発表されました。

プラチナ抵抗性卵巣がんの患者さんに、モセルタタグ レゼテカンを3週間ごとに点滴したところ、5.8mg/kg群では、評価可能だった34人中21人に腫瘍の縮小(奏効率62%)が確認されました。

しかも、治療開始から効果が確認されるまでの期間の中央値は1.4カ月でした。比較的早い段階から腫瘍が縮小したことになります。観察期間の中央値は6.1カ月とまだ短く、効果が続いた期間の中央値は、発表時点では算出されていませんでした。

この試験には、ベバシズマブの治療歴がある患者さんや、PARP阻害薬の治療歴がある患者さんも多く含まれていました。

一方で、トポイソメラーゼⅠ阻害薬による治療歴のある患者さんは対象外でした。したがって、トポテカンや同系統の薬をすでに使った患者さんにも、同じような効果が得られるかはまだ分かりません。

副作用は決して軽くない

「がん細胞を狙って抗がん剤を届ける」と聞くと、副作用がほとんどない薬のように感じるかもしれません。

しかし、5.8mg/kgを投与されたプラチナ抵抗性卵巣がん患者では、主な副作用として、吐き気、好中球減少、貧血、倦怠感、脱毛などが報告されました。

グレード3以上の治療関連有害事象は64%にみられ、39%で休薬、39%で減量が必要になっています。一方、治療関連の副作用によって完全に治療を中止した患者さんは、この卵巣がん群では認められませんでした。

また、複数のがん種と用量を合わせた178人の解析では、エンハーツでも問題になっている間質性肺疾患が見られています。グレード1または2と軽度でしたが、ADCでは咳や息切れなどの呼吸器症状にも注意が必要です。

日本でも第3相試験が開始

この結果を受けて、プラチナ抵抗性卵巣がんを対象とした国際共同第3相試験「BEHOLD-Ovarian01」が2026年7月10日より開始されています。

約450人を対象に、モセルタタグ レゼテカンと、医師が選択する標準的な抗がん剤が比較されます。比較対象となるのは、パクリタキセル、ドキシル、トポテカン、ゲムシタビンです。

日本で治験が受けられる病院:兵庫県立がんセンター、聖マリアンナ医科大学病院、埼玉医科大学国際医療センター、鳥取大学医学部附属病院、大阪医科薬科大学病院、九州がんセンター、北海道大学病院、東北大学病院、神奈川県立がんセンター、琉球大学病院

第1相試験の奏効率62%は、非常に期待を持たせる数字です。

ただし、参加人数はまだ少なく、比較対象のない初期試験です。治療効果が長く続くのか、生存期間を延ばすのか、標準的な抗がん剤よりも本当に優れているのかは、第3相試験の結果を待たなければ分かりません。

もう一つの注目点は、B7-H4の発現量です。BEHOLD-1では、B7-H4の発現が低い腫瘍を含む幅広い発現量で効果がみられたと報告されています。

将来的に、B7-H4が強く発現している患者さんだけに使う薬になるのか、それとも特別な陽性基準を設けずに使える薬になるのか。これも第3相試験で確認したいポイントです。

モセルタタグ レゼテカンは、現時点ではまだ治験段階の薬です。

それでも、プラチナ製剤、ベバシズマブ、PARP阻害薬などを使ったあとにも治療の可能性を残せることは、卵巣がん治療にとって大きな意味があります。

モセルタタグ レゼテカンがプラチナ抵抗性卵巣がんの新しい選択肢になれるのか。

BEHOLD-Ovarian01試験の結果が楽しみです。

濱元誠栄院長

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この記事を書いた人

1976年宮古島市生まれ。宮古島市立久松中学から鹿児島県のラ・サール高校に進学。鹿児島大学医学部を経て沖縄県立中部病院で研修医として勤務。杏林大学で外科の最先端医療を学んだのち再び沖縄県立中部病院、沖縄県立宮古病院、宮古徳洲会病院に外科医として勤務。2011年9月に上京しRDクリニックで再生医療に従事した後に、18年7月にがん遺伝子治療を専門とする銀座みやこクリニックを開院。

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