「断食」と「痩せる薬」 がん研究が注目し始めた共通点とは?

濱元誠栄院長

こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。

今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)では、「断食」と「GLP-1受容体作用薬」の話題が注目を浴びました。

「マンジャロ」という薬剤を、ニュースやSNSで耳にしたことがあるかもしれません。

GLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1)という薬剤で、糖尿病の治療に使われますが、食欲を抑える作用があり、やせ薬、ダイエット薬としても人気があります(抗肥満薬としての薬剤名は「ゼップパウンド」)。

*その他のGLP-1作動薬:オゼンピック、ビクトーザ、トルリシティ、リベルサス(経口)など

そんな薬剤が、今、がん研究の世界で思いがけない注目を集めています。

ASCO2026では、GLP-1受容体作動薬とがんの関係について

  • がん患者の生存率が改善する可能性
  • 転移を抑える可能性
  • がんの進行を遅らせる可能性

についての研究が発表されました。

現時点ではまだ観察研究であり「GLP-1を使えばがんが治る」という話ではありませんが、「断食」についての研究もあり、これらとがんの関係について書いていきたいと思います。

目次

がん細胞は大食いである

がん細胞には正常細胞よりも多くのエネルギーを必要とする特徴があります。

そのため、PET検査ではブドウ糖に似た薬剤を使ってがんを光らせます。

つまり、がん細胞は常に大量の栄養を求めているのです。

そこで昔から研究されてきたのが、

「栄養を制限すると、がん細胞は弱るのではないか」

という考え方です。

実際に動物実験では、カロリー制限や断食によって腫瘍の増殖が抑えられることが報告されています。

また、一部の研究では抗がん剤の副作用軽減や治療効果向上の可能性も示されています。

がん治療での断食の狙い

実際、ASCOでこのような発表がありました。

一部の卵巣がんにおいて、化学療法前後の断食は治療効果を高める可能性

卵巣がん(高悪性度漿液性卵巣がん)のステージ3〜4の患者36人を対象に、手術前の抗がん剤治療(カルボプラチン+パクリタキセル)を行う際、以下の2つのグループに分けて効果を比較しました。

  1. 断食グループ(18人)抗がん剤投与の36時間前から投与後24時間まで断食(水やハーブティーは自由、野菜ジュースやスープを少量。1日350kcal以下)。
  2. 通常食事グループ(18人):治療中も通常通りに食事を摂取。

どちらのグループも、抗がん剤のセッションがない期間は普通に食事を摂っています。

3コースの治療を終えて比較したところ、驚くべき差が出ました。

  • インスリン値の変化:通常食事グループではインスリン値が上昇したのに対し、断食グループでは狙い通りインスリン値がしっかりと低下していました。
  • 腫瘍への効果:通常食事グループで高い効果が見られたのは5人に1人未満だったのに対し、断食グループではなんと5人に3人(約60%)が、腫瘍が非常によく反応した状態(完全奏効またはそれに近い状態)になりました。
  • 再発しない期間:通常食事グループの再発リスクがない期間(中央値)が約24カ月(2年)だったのに対し、断食グループは38カ月(3年以上)と、大幅に寿命を延ばす結果となりました。

さらに、断食グループでは腫瘍の進行を後押ししてしまう「悪い免疫細胞」が減っていることも確認されました。

気になる副作用ですが、抗がん剤治療でおなじみの白血球やヘモグロビンの減少などは見られたものの、その頻度は両グループで差がなく、断食グループの全員が脱落することなく治療を完了できたそうです。

断食を行うと、下記の変化が起こります。

  • インスリンの低下
  • IGF-1の低下
  • 慢性炎症の抑制
  • 代謝の変化

難しい言葉が並びましたが、簡単に言うと、断食で

がん細胞が育ちにくい環境に変わる

のです。

GLP-1も似た方向を向いている

ここでGLP-1の話に戻ります。

この薬は単に食欲を抑えるだけではありません。

体重減少に加えて、

  • 血糖値の改善
  • インスリン抵抗性の改善
  • 炎症の抑制

など、全身の代謝環境を大きく変化させます。

つまり、

断食ほど極端ではない方法で、断食に近い代謝状態を作り出している

とも言えます。

ASCOで発表された驚きの研究

今回のASCOでは、GLP-1に関する興味深い研究が相次いで発表されました。

まず、肥満を伴う子宮体がん患者を対象とした大規模解析では、GLP-1使用者の方が全死亡率が低いことが報告されました。

さらに、約1万2000人を対象とした解析では、GLP-1の使用者は

  • 乳がん
  • 大腸がん
  • 肺がん
  • 肝がん

などで転移への進行が少ない可能性が示されました。

また別の研究では、

がん診断後にGLP-1を開始した患者で生存率が改善していた

ことも報告されています。

もちろん、これらは因果関係を証明する研究ではありません。

「GLP-1が、なぜ転移や生存率と関係するのか」という問いに対しては、まだ完全に解明されていません。

がんが育ちにくい環境

断食や、GLP-1によって起こる断食様変化ががんの悪化・増殖を抑える可能性

についての研究はこれからも進んでいきそうな感じがします。

抗がん剤等でがん細胞を攻撃するだけではなく、断食でがんが育ちにくい環境を作る。

今回のASCOの研究は、その重要性を改めて教えてくれたように感じます。

まだGLP-1をがん治療として使う段階ではありません。

しかし、がん治療に併用して「がんが育ちにくい体を作る」。そんな新しい流れが始まりつつあるのかもしれません。


参考

  • ASCO 2026:GLP-1受容体作動薬と肥満関連がんの転移進行に関する研究
  • ASCO 2026:GLP-1受容体作動薬使用後の生存率解析
  • ASCO Daily News:GLP-1 receptor agonists exposure after diagnosis improved survival across malignancies
  • 断食とがん治療に関するレビュー研究(Fasting and Cancer Treatment)
  • Longo VD, et al. Fasting and cancer: molecular mechanisms and clinical application. Nat Rev Cancer. 2014.
濱元誠栄院長

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この記事を書いた人

1976年宮古島市生まれ。宮古島市立久松中学から鹿児島県のラ・サール高校に進学。鹿児島大学医学部を経て沖縄県立中部病院で研修医として勤務。杏林大学で外科の最先端医療を学んだのち再び沖縄県立中部病院、沖縄県立宮古病院、宮古徳洲会病院に外科医として勤務。2011年9月に上京しRDクリニックで再生医療に従事した後に、18年7月にがん遺伝子治療を専門とする銀座みやこクリニックを開院。

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