胃薬と抗菌薬で免疫療法の効果が弱まる?

濱元誠栄院長

こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。

がん治療で様々な革命を起こしている免疫チェックポイント阻害薬。

以前から、このような問題が指摘されていました。

「一緒に使っている薬が、免疫療法の効果を下げる」

今回紹介するのは、切除不能なステージ3非小細胞肺がんに対して、化学放射線療法後に免疫チェックポイント阻害薬イミフィンジ(デュルバルマブ)を使う治療を検証したPACIFIC試験の事後解析です。

PACIFIC試験は、化学放射線療法後に病勢進行がない患者さんに、イミフィンジを最大12か月投与することで、無増悪生存期間や全生存期間を延長した試験です。

この試験の結果、切除不能ステージ3非小細胞肺がんでは、化学放射線療法後のイミフィンジ維持療法が標準治療として定着しました

ところが今回、そのPACIFIC試験のデータを別の角度から見直したところ、気になる結果が報告されました。

治療開始前に、プロトンポンプ阻害薬、いわゆるPPIと呼ばれる胃薬を使っていた患者さんでは、イミフィンジの効果が弱くなる傾向があったのです。

PPIとは、胃酸を強く抑える薬です。逆流性食道炎、胃潰瘍、胃炎、ステロイドや痛み止め使用時の胃粘膜保護などで、非常によく使われています。代表的な薬剤に、タケキャブオメプラール(一般名:オメプラゾール)タケプロン(一般名:ランソプラゾール)、パリエット(一般名:ラベプラゾール)、ネキシウム(一般名:エソメプラゾール)などがあります。

今回の解析では、PACIFIC試験に登録された患者さんのうち660人が対象となり、そのうち449人がイミフィンジ群、211人がプラセボ群でした。PPIを使用していた患者さんは全体の40%、抗菌薬を使用していた患者さんは10%でした。

イミフィンジ群で見ると、PPIを使っていた患者さんの無増悪生存期間中央値は9.4か月、PPIを使っていなかった患者さんでは17.2か月でした。全生存期間中央値も、PPI使用ありでは33.0か月、PPI使用なしでは57.9か月でした。

これは、かなり大きな差です。

さらに興味深いのは、プラセボ群ではPPI使用の有無による明らかな差が見られなかったことです。つまり、PPIを使っている人が単に体調が悪かったから結果が悪く見えた、というだけでは説明しにくく、イミフィンジという免疫療法の効果に関係している可能性が示唆されました。

抗菌薬についても、似た傾向がありました。

デュルバルマブ群では、抗菌薬(抗生物質)を使っていた患者さんの無増悪生存期間中央値は9.2か月、使っていなかった患者さんでは15.6か月でした。全生存期間中央値は、抗菌薬使用ありでは37.7か月、抗菌薬使用なしでは49.2か月でしたが、統計学的に有意な差はありませんでした。

つまり、今回のデータをかなり慎重に表現すると、

PPIは、イミフィンジの効果を弱める可能性がある。

抗菌薬も、少なくとも無増悪生存期間には悪影響を与える可能性がある。

ということになります。

では、なぜ胃薬や抗菌薬が、免疫チェックポイント阻害薬の効き方に関係するのでしょうか。

キーワードは、腸内細菌です。

免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞を直接攻撃する薬というより、体の免疫システムががんを攻撃しやすくする薬です。その免疫システムには、腸内細菌の状態が関わっていることが以前から報告されています。

抗菌薬を使うと腸内細菌のバランスが崩れますし、PPIは胃酸を抑えることで、胃酸で死滅していた悪玉菌が腸内まで到達し腸内細菌の構成に影響すると考えられています。

ここで大事なのは、

胃薬や抗菌薬を絶対に使ってはいけない、という話ではありません。

感染症があるのに抗菌薬を使わないのは危険です。肺炎、尿路感染、胆管炎、発熱性好中球減少症などでは、抗菌薬が命を守る薬になります。

また、胃潰瘍や消化管出血のリスクが高い人、強い逆流性食道炎がある人、ステロイドやNSAIDsを使っていて胃粘膜障害のリスクが高い人では、胃酸を抑える薬が必要なこともあります。

問題は、必要性がはっきりしないまま、なんとなく続けているケースです。

「抗がん剤をしているから、とりあえず胃薬を出しておきましょう」

「昔から(胃薬を)飲んでいるから、そのまま続けています」

こうした“なんとなくの胃薬”は、免疫チェックポイント阻害薬を使う患者さんでは、一度見直すべきです。

特にPPIは、症状が落ち着いた後も長く続いていることがあります。胃薬の中でも、PPIだけでなく、H2ブロッカー、制酸薬、胃粘膜保護薬など種類はいろいろあります。今回のPACIFIC解析で問題になったのはPPIと全身性抗菌薬であり、「胃薬すべてが悪い」と言っているわけではありません。

日本ではタケキャブがよく使われます。これは厳密にはPPIではありませんが、強力に胃酸を抑える薬です。今回のPACIFIC解析の結果をそのまま当てはめることはできませんが、「強い胃酸抑制薬を漫然と続けていないか」という視点では、同じように見直す価値があります。

もし現在免疫チェックポイント阻害薬の投与中で、抗菌薬やPPIを使っていたら、自己判断で薬を中止してはいけません。

必ず主治医と相談して、「止めてよい薬かどうか」確認してください。

主治医や薬剤師と相談しながら、その必要性を慎重に見極め、可能な限り不要な処方を避ける、代替案を検討するなどの管理が極めて重要です。

最後に

今回の研究は、あくまで事後解析です。PPIや抗菌薬がイミフィンジの効果を直接下げたと証明したわけではありません。PPIを使っていた人は、もともと逆流性食道炎や食道炎症状が強かったのかもしれませんし、抗菌薬を使っていた人は感染症や全身状態の問題を抱えていた可能性もあります。

それでも、PACIFIC試験という大規模で重要な臨床試験のデータから、PPI使用とイミフィンジの治療成績低下が関連していたという点は、軽視できません。

免疫チェックポイント阻害薬の時代になり、がん治療は「どの薬を使うか」だけではなくなってきました。

腸内環境、抗菌薬、胃酸抑制薬、ステロイド、栄養状態、筋肉量、睡眠、運動。

こうした治療以外の要素も、治療効果に関係する可能性があります。

免疫チェックポイント阻害薬を受けている方、これから受ける予定の方は、ぜひ一度、今飲んでいる胃薬や抗菌薬について、主治医に確認してみてください。

濱元誠栄院長

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この記事を書いた人

1976年宮古島市生まれ。宮古島市立久松中学から鹿児島県のラ・サール高校に進学。鹿児島大学医学部を経て沖縄県立中部病院で研修医として勤務。杏林大学で外科の最先端医療を学んだのち再び沖縄県立中部病院、沖縄県立宮古病院、宮古徳洲会病院に外科医として勤務。2011年9月に上京しRDクリニックで再生医療に従事した後に、18年7月にがん遺伝子治療を専門とする銀座みやこクリニックを開院。

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