
【トリプルネガティブ乳がん】最新治療と生存率を向上させる新薬

濱元誠栄院長こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
今回は、トリプルネガティブ乳がんについてお話しします。
動画でご覧になりたい方は、You tube動画も参考に
トリプルネガティブ乳がんと聞くと、ネットではまず不安になる言葉が出てきます。
「増殖が速い」
「予後が悪い」
「治療法が少ない」
このような言葉を見て、怖くなってしまう方も多いと思います。

確かに増殖スピードが速い傾向にあるのですが、予後や治療の選択肢に関しては、薬物療法の発展により、そうとも言えなくなってきています。
今回は、その誤解を解くための内容になっています。
トリプルネガティブ乳がんとは
まず、トリプルネガティブ乳がん(以下、TNBC)とは何かについてお話しします。
乳がんを分類する時に、ホルモン受容体であるER(エストロゲン受容体)、PgR(プロゲステロン受容体)、そしてHER2受容体の3つが用いられるます。
TNBCは、その3つが見られない(陰性:ネガティブ)である乳がんのことを言います。

TNBCは、乳がん全体の約10〜15%を占めるとされています。
ホルモン受容体陽性の乳がんであれば、ホルモン療法が治療の軸になります。HER2陽性であれば、抗HER2療法が大きな柱になります。
一方、トリプルネガティブ乳がんでは、ホルモン療法や従来の抗HER2療法が中心になりにくく、化学療法、免疫療法、抗体薬物複合体、遺伝子検査に基づく治療などを、病期や検査結果に合わせて組み立てていきます。
病期(ステージ)別の治療法
同じトリプルネガティブ乳がんでも、病期が違えば治療のゴールも変わります。
早期であれば、手術で取り切ることを目指します。
局所進行であれば、まず全身治療でがんを小さくし、手術につなげることを考えます。
再発・転移がある場合には、延命、症状緩和、生活の質を保つことを含めて、全身治療を中心に考えていきます。

治療は、病期、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、手術前後の病理結果、PD-L1、BRCA1/2、HER2低発現などを見ながら変わります。
特に、ここ数年で大きく変わったのが、早期から局所進行のトリプルネガティブ乳がんに対する治療です。
早期の周術期治療にキイトルーダが登場
以前は、術前化学療法を行い、手術をして、その後に必要な治療を考える、という流れが中心でした。
しかし現在は、高リスクの早期トリプルネガティブ乳がんでは、術前化学療法にキイトルーダを加え、手術後もキイトルーダを継続する治療が重要な選択肢になっています。
この根拠になったのが、KEYNOTE-522試験です。この試験では、手術可能なトリプルネガティブ乳がんに対して、化学療法にペムブロリズマブ、つまりキイトルーダを加えることで、5年全生存率が86.6%となり、化学療法のみの81.7%を上回りました。

これは、とても大きな変化です。
トリプルネガティブ乳がんは「薬が少ない」と言われてきましたが、少なくとも一部の患者さんでは、免疫療法を組み合わせることで、再発を減らし、生存率の改善が期待できる時代になっています。
術前術後治療のまとめ
術前治療を行ったあとに、手術でがんがどれくらい残っているかで、術後治療が変わります。

がんが残っていた場合には、再発リスクが高くなるため、追加治療を検討します。代表的な選択肢のひとつがカペシタビンです。CREATE-X試験では、術前化学療法後にがんが残っていたHER2陰性乳がんに対して、術後カペシタビンを追加することで、無病生存期間と全生存期間の改善が示され、トリプルネガティブ乳がんのサブグループでも利益が示されました。
さらに、BRCA1またはBRCA2に病的バリアントがある場合には、リムパーザのようなPARP阻害薬が治療選択肢になることがあります。OlympiA試験では、gBRCA1/2病的バリアントを持つ高リスクHER2陰性早期乳がんに対して、術後オラパリブが全生存期間を改善しました。
再発転移トリプルネガティブ乳がんの治療法
再発・転移のトリプルネガティブ乳がんでも、治療は以前より複雑になっています。
PD-L1が陰性の場合

PD-L1が陽性、特にCPS 10以上の場合には、キイトルーダと化学療法の併用が選択肢になります。

新しく加わった治療が3つ
①BRCA1/2に病的バリアントがあれば、PARP阻害薬を考えます。
②HER2が完全にゼロではなく、HER2低発現に当てはまる場合には、エンハーツが選択肢になることがあります。
③そして、ADCトロデルビとダトロウェイです。
ADCとは、抗体薬物複合体のことです。
難しく聞こえますが、イメージとしては、がん細胞を見つける抗体に、抗がん剤をくっつけた薬です。
抗体ががん細胞の目印を探し、そこに結合して、細胞内に薬を届ける。
つまり、普通の抗がん剤のように全身へ広く作用するだけでなく、がん細胞を狙って薬を届けようとする治療です。

もちろん、正常細胞への影響がゼロになるわけではありません。副作用もあります。
それでも、トリプルネガティブ乳がんの治療において、ADCは非常に重要な位置づけになってきています。
代表的な薬が、トロデルビです。ASCENT試験では、転移性トリプルネガティブ乳がんに対して、サシツズマブ ゴビテカン、つまりトロデルビが通常の単剤化学療法と比べて、無増悪生存期間と全生存期間を有意に延長しました。中央値では、全生存期間が12.1か月対6.7か月でした。
日本でも、トロデルビは2024年9月に、化学療法歴のある手術不能または再発トリプルネガティブ乳がんに対して製造販売承認を取得しています。
また、ダトロウェイというTROP2を標的とするADCも注目されています。日本では現在、化学療法歴のあるHR陽性HER2陰性の手術不能または再発乳がんで承認されていますが、トリプルネガティブ乳がんの一次治療への効能追加も申請されています。

この流れを見ると、トリプルネガティブ乳がんの治療は、明らかに変わり始めています。
昔は、「ホルモン療法も抗HER2療法も使えない乳がん」という説明が中心でした。
今は違います。
PD-L1を見る。
BRCAを見る。
HER2低発現を見る。
TROP2を標的にする。
そして、必要に応じて遺伝子パネル検査と、それに伴う分子標的薬などが今後承認される可能性があります(一部は治験開始)。

もちろん、現実にはまだ課題もあります。
すべての方に新しい薬が効くわけではありません。
副作用で治療を続けにくいこともあります。
保険適用の条件に当てはまらないこともあります。
治験は、どこでも受けられるわけではありません。
だからこそ、標準治療を否定せず、まずは標準治療を土台にすることが大切です。
そのうえで、遺伝子検査、治験、副作用対策、栄養、体力、生活の質を一緒に考える。
がんだけを見るのではなく、その人の暮らし全体を見ながら治療を考える。
これが、これからのトリプルネガティブ乳がん治療で大切な視点だと思います。
トリプルネガティブ乳がんと言われた方に、確認してほしいことがあります。
病期はどこか。
手術前に薬物療法を行う方針か。
手術後にがんが残っているか。
PD-L1は調べているか。
BRCA1/2は調べる必要があるか。
HER2低発現に当てはまるか。
ADCの対象になる可能性があるか。
治験や遺伝子パネル検査を考える場面か。
副作用を減らしながら治療を続ける方法はあるか。
この確認だけでも、見える景色は変わります。
トリプルネガティブ乳がんは、不安の強い名前です。
でも、名前だけで未来が決まるわけではありません。
TNBCは、「治療法がない乳がん」ではありません。
「治療の選び方が違う乳がん」です。
今は、治療選択肢が増えています。
そしてこれからは、さらに個別化医療が進んでいく可能性があります。
大切なのは、不安な言葉だけに飲み込まれないこと。
自分の病状を整理し、必要な検査を確認し、今使える治療と、これから考えられる治療を分けて見ていくことです。
治療は、確実に進歩しています。
一緒に、選べる道を整理していきましょう。
参考文献・根拠
・KEYNOTE-522:早期TNBCに対するペムブロリズマブ併用術前・術後治療
・KEYNOTE-355:PD-L1陽性再発・転移TNBCに対するペムブロリズマブ+化学療法
・CREATE-X:術前化学療法後の残存病変に対するカペシタビン
・OlympiA:gBRCA1/2病的バリアントを有する高リスクHER2陰性早期乳がんに対するオラパリブ
・ASCENT:転移性TNBCに対するサシツズマブ ゴビテカン
・DESTINY-Breast04:HER2低発現進行乳がんに対するトラスツズマブ デルクステカン













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