
【医師解説】乳がん術後のCT・腫瘍マーカー検査は毎回受けるべき?
濱元誠栄院長こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
*今回のブログの内容はYouTube動画でも見ることができます。
乳がんの手術を終えた患者さんから、よく聞かれる質問があります。
「腫瘍マーカーは毎回測らなくていいんですか?」
「CTは定期的に撮った方が安心ですよね?被ばくは怖いけど、、、」
「症状が出てから再発が見つかるのでは遅くないですか?」
これらの質問は、再発を心配している患者さんにとって、もっともな疑問です。
「再発しないのが一番だけど、もしするなら、できるだけ早く見つけたい」と思うのは当然です。
CTや腫瘍マーカー、PETーCTなど、使える検査は全部使った方が安心ではないか?
ところが、乳がんの術後については、
検査をたくさんすればするほど、その後の経過が良くなるとは限らない
とされています。
ここは少し分かりにくいところなので、今回は乳がん術後の検査について整理してみます。
乳がん術後の基本は「診察+マンモグラフィ」
日本乳癌学会の患者さん向けガイドラインでは、乳がん手術後の経過観察として、
定期的な診察と、年1回のマンモグラフィ
が一般的とされています。
ここで、
「年1回のマンモグラフィって、どちらの乳房を撮るの?」
と思う方もいるかもしれません。
これは手術方法によって違います。
乳房温存手術を受けた場合
乳房が残っていますから、
手術をした側の乳房+反対側の乳房
を1-2年に1回マンモグラフィで確認します。
手術した側では、温存した乳房の中に「乳房内再発」や「新たな乳がん」が生じることがあります。
反対側の乳房には、再発というより、もう一つ別の乳がんが新しくできることがあります。
マンモグラフィは、この両方を見つけるための検査です。日本乳癌学会も、温存した乳房の局所再発と、反対側にできる新しい乳がんを見つける目的で、術後のマンモグラフィを推奨しています。
片側の乳房を全摘した場合
この場合は、
残っている反対側の乳房
をマンモグラフィで確認するということになります。
なぜ、CT検査は推奨されないのか?
ここが一番疑問に思われるところでしょう。
マンモグラフィで分かるのは、主に乳房の中の変化です。
乳がんが再発すると、
- 骨
- 肺
- 肝臓
- 脳
など、遠隔臓器に転移することがあります。
*こちらのブログも参照

だったら、
CTやPET-CTを定期的に撮って、症状が出る前に転移を見つけた方がいいのではないか?
そう考えるのは自然なことです。
実際、CTを定期的に撮っていれば、症状が出る前に転移が見つかることはあります。
問題はその次です。
早く見つけることと、長く生きられることは、必ずしも同じではありません。
日本乳癌学会も、症状のない患者さんにCTなどの画像検査や腫瘍マーカーを定期的に行うことで、生存率が改善することは示されていない、としています。
2026年に更新されたASCO(米国臨床腫瘍学会)の乳がん術後フォローのガイドラインでも、診察とマンモグラフィが基本であるという考え方は変わっていません。
「早く見つかった=長生きできる」ではない
例えば、同じ時期に乳がんの再発が始まったAさんとBさんがいたとします。
Aさんは定期的にCTを撮っていました。
症状はありませんでしたが、CTで再発が見つかりました。
その後3年間治療を受けました。
一方、BさんはCTを定期的には撮っておらず、1年後に症状が出てから再発が分かりました。
そこから2年間治療を受けました。
数字だけを見ると、
Aさん 再発後3年
Bさん 再発後2年
なので、
「Aさんは早く見つけたから1年長く生きた」
ように見えます。
ところが、二人が亡くなった時期が同じだったとしたらどうでしょう。
Aさんは1年早く再発を知っただけで、実際の寿命は変わっていません。
これを医学では、
リードタイム・バイアス
と呼びます。
「再発後の生存期間」が長くなっていても、「手術を受けてからの寿命」が延びているとは限らないのです。

乳がん術後の検査を考える時、医師はこの考え方をします。日本乳癌学会の患者向けガイドラインでも、この問題が説明されています。
でも、患者さんにとっては、何となく納得いかない感じがする人が多い印象があります。
腫瘍マーカーはどうか?
乳がんで使われる腫瘍マーカーは、
CA15-3
CEA
NCC-ST-439
BCA225
の4つです。
(NCC-ST-439とBCA225は、CEA、CA15-3に反応しない場合のみ)
血液を採るだけなので、
「CTより簡単だし、毎回測ればいいじゃないですか」
と思う方も多いでしょう。
ただ、腫瘍マーカーには大きな弱点があります。
腫瘍マーカーが上がっても、再発とは限らない
がん以外の理由で数値が変動することがありますし、CEAなどは肺がんや消化器がんでも上昇します。
逆に、
再発していても、上がらないことがある
つまり、
正常だから再発していないとも言えないし、上がったから再発したとも言えません。
日本乳癌学会も、乳がん術後の腫瘍マーカーはあくまで補助的な検査であり、マーカーだけで再発を判断することはできないと説明しています。
ASCOの2026年ガイドラインでも、症状のない患者さんに対して、再発を監視する目的でCEAやCA15-3などをルーチンに測定することは推奨していません。
これは、
「腫瘍マーカーには何の意味もない」
という話ではなく、「乳がん術後で症状のない人全員に、再発を早く見つける目的で定期的に測る」メリットはないということです。
すでに再発が分かっている患者さんの治療効果を見る場合など、腫瘍マーカーが参考になる場面はあります。
CTをたくさん撮ることにもデメリットがある
検査というと、
「やって悪いことはない。やらない方が心配」
と思われがちです。
実際には、検査にもデメリットがあります。
一つは偽陽性です。
例えばCTを撮ったら、
「肺に3mmの影があります」
「肝臓に小さな影があります」
となることがあります。
でも、それが乳がんの転移とは限りません。
以前からあった良性の結節かもしれませんし、炎症の痕かもしれません。
分からなければ、
「3か月後にもう一度CTを撮りましょう」
となります。
さらにMRIやPET-CT、場合によっては生検まで行われます
こうなると、最初は安心するために受けた検査が、逆に何か月も不安を抱える原因になることがあります。
ほかにもCTには被ばくがありますし、検査費用もかかります。
(必要なCTなら被ばくを理由に避ける必要はありません。)
問題は、
必要性がはっきりしないCTを、安心のためだけに何度も繰り返す必要があるのか
ということです。
再発リスクによって変わる
乳がんには、再発リスクが比較的低いケースもあれば、高いケースもあります。
ステージ、リンパ節転移、乳がんのタイプ、術前治療の効果などによって、再発リスクはかなり違います。
2026年のASCOガイドラインでも、局所進行乳がんや、術前化学療法後にがんが残っていた患者さんなど、再発リスクの高い患者さんでは、より慎重なフォローが必要になる場合があるとしています。
ただ、
「高リスクだから全員半年ごとにCT」
など、一律に決めらた基準はありません。
ここは患者さんごとに、主治医が考える部分です。
症状がある場合は積極的に検査する
「症状のない乳がん術後患者さんに、CTを定期的に撮る必要があるのか?」
という話になると、それはNoですが、
症状がある場合、
例えば、
- なかなか治らない骨の痛み
- 咳や息切れが続く
- 原因のはっきりしない腹痛や食欲低下
- 今までなかった頭痛
- 手足のしびれ
- 胸やわきの下、首などのしこり
こういった症状が続く場合には、その症状に応じた検査を行います。
CTが必要ならCT。
脳の症状ならMRI。
骨の症状なら骨を調べる検査。
特に、
急な麻痺、けいれん、強い呼吸困難、排尿・排便が急にできなくなった
といった症状があれば、定期受診を待ってはいけません。
最近よく聞く「ctDNA」は?
もう一つ、今後の乳がん術後フォローで注目されているのがctDNAです。
がん細胞から血液中に出てくるDNAを調べる検査です。
画像で再発が見える前に、血液中から再発の兆候を捉えられる可能性があるとして、注目されています。
これまでの研究では、
術後にctDNAが検出される患者さんは、その後の再発リスクが高い
ことが分かってきています。
では、
「ctDNAが陽性になった時点ですぐ治療を始めればいいのでは?」
となります。
ここはまだ分かっていません。
ctDNAで早く再発の兆候を見つけて、その時点で治療を変えることによって、
最終的に患者さんが長く生きられるのか。
そこまでの証明がまだありません。
ASCOも2026年時点では、乳がん術後の再発チェックとしてctDNAを通常診療でルーチンに使うことは推奨していません。
しかし、かなり期待されている検査ではあります。
「CTを撮っていないから不十分」ではありません
乳がんの術後外来では、
「友人の病院では半年ごとにCTを撮っているのに、私は撮っていません」
「腫瘍マーカーも測ってくれないのですが大丈夫でしょうか」
と不安を表す人が少なくありません。
病院によって検査方法が違えば、なおさらそう感じると思います。
ただ、
検査の数が多いことと、きちんとフォローされていることは同じではありません。
乳がん術後のフォローで大切なのは、
何のために、その検査をするのか
を考えて組み立てていくことです。
マンモグラフィは、残っている乳房の局所再発や、新しくできる乳がんを見つけるため。
CTやMRIは、症状や所見があったときに、その原因を調べるため。
再発リスクが高ければ、その人に合わせてフォロー方法を考える。
このように整理すると、
「検査をたくさん受けていれば安心」
「CTを毎回撮っていないから心配」
という二択ではありません。
まとめ
乳がんの手術後について、私は次のように考えると分かりやすいと思います。
① 基本は定期的な診察とマンモグラフィ
乳房温存術後なら、温存した乳房と反対側の乳房を確認します。
片側全摘後なら、主に残っている反対側の乳房を確認します。
② 症状がない人全員に、腫瘍マーカーやCTを繰り返せばよいわけではない
再発を早く発見することはあっても、それによって生存期間が延びることは現在まで証明されていません。
(不安で検査したくなる気持ちは分かります!)
③ 症状がある場合は別
症状や診察所見に応じて、CT、MRIなど必要な検査を速やかに行います。
④ 再発リスクが高い患者さんは、フォロー方法を個別に考える
全員を同じ方法で診ていく必要もありません。
そしてctDNAについては、今後かなり期待される分野ですが、2026年時点ではまだ乳がん術後の標準的な再発検査ではありません。
乳がんの手術が終わった後は、
「再発を見逃したくない」
という気持ちがどうしても強くなります。
だからこそ、検査の回数だけを見るのではなく、
自分の場合、何をどのように見ていくのか。
そこを理解しておく方が、長い術後フォローでは大切だと思います。













コメント
コメント一覧 (2件)
それなら、再発後の治療に何の意味があるのですか? 治療開始に一年のタイムラグがあるにも関わらず、それが生存期間に影響しないのであれば、定期フォローの間隔も意味がないのではないですか?
再発後の治療に意味がないという訳ではありません。再発後の治療には、進行を抑えたり、症状を軽くしたり、生存期間を延ばす意味があります。
ただ、”無症状の段階”で再発を数か月とか1年早く見つけて、治療をその分早く始めることが、さらに生存期間を延ばすとは証明されていないということです。
「治療する意味」と「少しでも早く治療を始める意味」は別の話です。
定期フォローも大切ですが、間隔を短くすればするほど予後が良くなる、ということではありません。