【膵臓がん】「肺転移のみ」は予後が良い! 諦めないための治療戦略

濱元誠栄院長

こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。

「膵臓がんで転移が見つかった」と聞くと、ステージ4となるため、多くの人が絶望的な気持ちになってしまいます。

しかし、最近の研究では、一口に「転移」と言っても、どこに転移したかによって、がんの性質や治療後の経過(予後)が大きく異なることが分かってきました。

特に、「他臓器への転移がなく、肺だけに転移がある(肺転移のみ)」というケースは、膵臓がんの中でも非常に特殊で、進行が緩やかであり、予後が明らかに良好であるというデータが複数の論文で報告されています。

今回は、海外の高名な医学誌に掲載されたデータをもとに、その理由と最新の治療の可能性についてわかりやすく解説します。

目次

1. データの衝撃:肝転移に比べて「生存期間が2倍以上」という報告も

がん専門誌『Oncotarget』に掲載された代表的な論文(※1)では、膵臓がんで「肺転移のみ」のグループと「肝転移のみ」のグループの経過を詳しく比較しています。

その結果、転移が確認されてからの「中央生存期間(患者さんたちのちょうど真ん中の順位の生存期間)」に、以下のような驚くべき差が出ました。

転移の部位中央生存期間
肝臓への転移のみ約 9.1 ヶ月
肺への転移のみ約 20.8 ヶ月

数値を見てもわかる通り、肺転移のみの患者さんは、肝転移のみの患者さんに比べて2倍以上の生存期間が確認されています。また、腫瘍マーカー(CEAやCA19-9)の上昇も緩やかである傾向が指摘されています。

当院でも、肺転移のみの患者さんで通常の化学療法だけで4年以上生存している患者さんがいます。

2. なぜ「肺転移のみ」だと経過が良いのか?

膵臓がんは一般的に進行が早いとされますが、なぜ肺転移だけはこのような違いが生まれるのでしょうか。理由は大きく2つあると考えられています。

  • がん自体の性質が「おとなしい」可能性
    肺だけに転移がとどまるタイプの膵臓がんは、もともとの生物学的な悪性度(がんの凶悪さ)が低い、つまり「比較的おとなしいタイプ」である可能性が高いと考えられています。
  • 致命的な状態になりにくい
    肝臓は体の代謝や解毒を司る臓器であるため、がんで機能が落ちると急激に命に関わります(肝不全など)。一方で、肺への転移は微小な段階では急激に肺の機能を奪うことが少ないため、抗がん剤治療を続けながら病気と付き合っていける「猶予(時間)」が長くなると考えられています。

3. 手術のあとの再発でも、同様のデータが

この傾向は、最初に膵臓の手術(切除)を行ったあとの再発でも同様にみられます。

別の研究(※2)では、手術後に「肺だけに再発した」グループは、肝臓への再発や、腹膜播種が起きたグループに比べて、再発後の生存期間が有意に長いことが示されています。

つまり、最初から肺転移がある場合でも、後から肺に再発した場合でも、「肺に限定されている」ということは、治療を粘り強く続けていく上で非常に重要な好条件と言えます。

4. これからの治療:条件が揃えば「切除(手術)」の選択肢も

これまでの医学の常識では、「遠隔転移がある膵臓がんは手術をしない(抗がん剤治療のみ)」が鉄則でした。

しかし近年の大規模データ解析(※3)では、肺転移のみの患者さんにおいて、化学療法(抗がん剤)で病勢をコントロールした上で、「肺の転移巣を手術で切り取ったグループ」は、抗がん剤のみのグループに比べて長期生存率が有意に高かったという報告も出てきています。

もちろん、これには以下のような厳しい条件をクリアする必要があります。

  1. 膵臓の原発巣が増大していないこと
  2. 肺の転移が少数(1個など孤発性)であること
  3. 最低でも半年は肺転移が増悪していないこと
  4. 手術に耐えられる体力があり、術後も抗がん剤治療を継続できること

それでも、「転移=治療法がない」ではなく、「条件が揃えば手術で根治を目指せるチャンスもある」という時代に変わりつつあるのは間違いありません。

最近では、肺転移に対して、オリゴ転移であれば、ラジオ波焼灼術(RFA)が行われることもあります。

2026年3月には凍結療法(経皮的凍結融解壊死療法)が保険承認されたので、それも選択肢に入ります。

やはり手術の負担を考えると、ラジオ波や凍結療法で済ませられるのであれば、その方が良いと思います。

まとめ:希望を持って主治医と相談を

膵臓がんと診断され、さらに転移があると聞けば、誰しも目の前が真っ暗になります。しかし、その転移が「肺のみ」である場合は、決して希望を捨てる必要はありません。

病気の進行が緩やかである可能性が高く、新しい抗がん剤や、場合によっては手術や放射線といった局所治療を組み合わせることで、長く、質を保ちながら生活できる可能性が十分にあります。

ご自身や大切なご家族がこの状況にある場合は、ぜひこれらの知見を頭の片隅に置き、主治医と今後の治療戦略(適した抗がん剤や、集学的治療の可能性)について、前向きに話し合ってみてください。この記事の根拠となった主な論文(参考文献)

  • ※1: Heterogeneity of metastatic pancreatic adenocarcinoma: Lung metastasis show better prognosis than liver metastasis—a case control study (Oncotarget, 2016)
  • ※2: Resected pancreatic ductal adenocarcinomas with recurrence limited in lung have a significantly better prognosis than those with other recurrence patterns (Oncotarget, 2015)
  • ※3: Risk factors and survival prediction of pancreatic cancer with lung metastases: A population-based study (Frontiers in Oncology, 2022)

先日、当院にセカンド・オピニオンに来られた患者さんも、肺のオリゴ転移ののみだったので、凍結療法を紹介しました。

アブスコパル効果を狙って、免疫療法も同時に行う予定です。

濱元誠栄院長

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この記事を書いた人

1976年宮古島市生まれ。宮古島市立久松中学から鹿児島県のラ・サール高校に進学。鹿児島大学医学部を経て沖縄県立中部病院で研修医として勤務。杏林大学で外科の最先端医療を学んだのち再び沖縄県立中部病院、沖縄県立宮古病院、宮古徳洲会病院に外科医として勤務。2011年9月に上京しRDクリニックで再生医療に従事した後に、18年7月にがん遺伝子治療を専門とする銀座みやこクリニックを開院。

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