
膵臓がんに「電場」を加える新治療が承認へ!!

濱元誠栄院長こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
こんなニュースが飛び込んできました!
腫瘍治療電場療法のオプチューンパクスが膵癌を対象に部会通過、抗癌薬と併用で
オプチューンパクスについては、昨年ブログで紹介しています。

まだ正式承認ではありませんが、専門家による審議で、
「この医療機器を承認してよい」
と判断された段階です。
通常はこのあと厚生労働省による正式な製造販売承認へ進むため、日本での実用化に向けてかなり大きな一歩を進んだと考えてよいでしょう。
この臨床試験の結果や、オプチューンについて解説していきます。
オプチューンパクスとは?
オプチューンパクスは
腫瘍治療電場療法
Tumor Treating Fields:TTFields
と呼ばれる治療です。
お腹の皮膚に専用の電極シートを貼り、そこから特殊な交流電場を発生させます。
ラジオ波などの高周波で腫瘍を死滅させるのはなく、がん細胞が分裂するときに必要な細胞内の動きを電場によって乱すことが目的です。
TTFieldsは、細胞分裂の過程を物理的に邪魔することで、がん細胞の増殖を抑え、細胞死を誘導すると考えられています。
抗がん剤に「電場」を追加するとどうなるのか?
今回の承認を後押ししたのが、国際共同第3相試験の
PANOVA-3試験
です。
対象となったのは、新たに診断された切除不能な局所進行膵腺がん571人。
患者さんを、
<従来治療>
ゲムシタビン+ナブパクリタキセル
(GnP療法)
<新しい治療>
GnP療法+TTFields(オプチューンパクス)
の2つに分けて比較しました。
その結果がこちらです。

青い線が、TTFields+GnP療法
薄い線が、GnP療法のみ
を指しています。
主解析となる、全生存期間中央値は、
GnP療法のみ 14.2カ月
TTFields+GnP療法 16.2カ月
でした。
中央値で2.0カ月の生存期間が延長しています
1年生存率がイメージしやすい
「生存期間が2カ月延びた」
という数字だけでは、少しがっかりしていまうかもしれません。
そこで私が注目したいのが1年生存率です。
1年生存率を見てみると
GnP療法のみ 60.2%
TTFields+GnP療法 68.1%
と、8%もの差がついています。
つまり、100人の患者さんが治療を受けたと仮定すると、
1年後に生存している人が、およそ60人から68人になる
というイメージです。
「中央値が2カ月延びた」という数字だけより、治療の意味が少し見えやすくなると思います。
今回の臨床試験の意義
今回の臨床試験は、薬剤(抗がん剤)を増やしたわけではないということに、大きな意義があると思います。
PANOVA-3試験でも、TTFieldsを追加することでGnP療法に伴う全身性の毒性が大きく増えることはありませんでした。
つまり、
抗がん剤とは別の方向から治療を上乗せして、生存期間を延ばした
という点に意味があります。
がん性疼痛の改善にも効果がある
今回のPANOVA-3試験で、私がもう一つ注目したのが、
痛みが悪化するまでの期間
です。
膵がんでは腫瘍が周囲の神経に影響し、強い腹痛や背部痛が出ることがあります。
PANOVA-3試験では、疼痛無増悪期間(疼痛が悪化しない期間)の中央値が、
GnP療法のみ 9.1カ月
TTFields+GnP療法 15.2カ月
でした。
その差はなんと6.1カ月。
痛みを抑えられる期間が半年も延びるというのは、非常に画期的な結果だと思います。
副作用は少ない?
「抗がん剤でないなら、副作用がない?」と思われるかもしれません。
TTFieldsにも副作用があり、特徴的なのが、電極を貼る部分の皮膚障害です。
PANOVA-3試験では、機器に関連した皮膚有害事象が76.3%に認められました。
多くは軽度から中等度でしたが、Grade 3の皮膚障害も7.7%に認められています。
発赤、かゆみ、皮膚炎などが見られるようで、これらをどうコントロールするかが、実際に長期間治療を続けるうえで重要になりそうです。
最大のハードルは「長時間装着」
TTFieldsは、一度だけすれば終わりという治療ではありません。
腹部に電極を貼り、携帯型の装置につないで生活します。
PANOVA-3試験では、TTFieldsをできるだけ長時間(1日18時間)使用する治療が行われました。
1日の中で起きている時間のほぼすべてが治療の時間になりますので、生活との折り合いを考えながら治療を続ける必要があります。
正式承認後、日本でどのような使用方法や患者サポート体制になるのかも注目したいところです。
ステージ4の膵がんにも使えるのか?
ステージ4で見つかることが多い膵臓がんでは、最も多い疑問だと思います。
今回のPANOVA-3試験の対象は、
切除不能局所進行膵がん(ステージ2-3)
です。
したがって現時点では、
「ステージ4の膵がんにも同じように有効」
とは言えません。
ただ、転移性(ステージ4)膵がんを対象としたPANOVA-4試験もすでに行われています。
この試験では、
オプチューン
+テセントリク+ゲムシタビン+アブラキサン
という4つの治療を組み合わせています。
2026年3月に発表された結果では、78人における病勢コントロール率は74.4%で、過去のGnP療法の試験を対照とした48%より高い結果となりました。
ただし、こちらはまだ第2相試験であり、これからの結果に注目です。
また、今回効果が確認された抗がん剤との組み合わせは、
ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP療法)
です。
FOLFIRINOXやNALIRIFOXなど、別の抗がん剤にTTFieldsを加えれば同じ効果が得られるかについても、今回の試験からは分かりません。
「画期的な治療」なのか?
これまでお話ししてきたように、オプチューンパクスによって膵がんが劇的に治るわけではありません。
「膵がん治療を一変させる夢の治療」とまではいきません。
一方で、
第3相ランダム化試験で全生存期間を有意に延長した
ことも事実です。
しかも、
既存の抗がん剤とはまったく異なる作用機序で、全身性毒性を大きく増やすことなく、生存期間と疼痛無増悪期間を改善した。
この意味は非常に大きいと思います。
まとめ
2026年8月24日、腫瘍治療電場療法を行う医療機器「オプチューンパクス」について、厚生労働省の医療機器・体外診断薬部会が製造販売承認を了承しました。
対象は切除不能な局所進行膵がんです。
承認の根拠となった第3相PANOVA-3試験では、
全生存期間中央値
14.2カ月 → 16.2カ月
1年生存率
60.2% → 68.1%
と、GnP療法へのTTFields追加によって有意な改善が認められました。
さらに、
痛みが悪化するまでの期間
9.1カ月 → 15.2カ月
という結果も注目されます。
一方で、
- 無増悪生存期間や奏効率には有意差がない
- 皮膚障害が多い
- 長時間の機器装着が必要
- 現時点でエビデンスがあるのは局所進行膵がん+GnP療法
という限界もあります。
それでも、
「従来の膵臓がん治療に、まったく違う仕組みの治療を上乗せする」
ことは、非常に興味深いニュースです。
正式な製造販売承認、保険適用、そして実際に日本の医療機関でいつから使用できるようになるのか。
今後の動きを引き続き見ていきたいと思います。













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