
日本人の大腸がん、約半数に「腸内細菌の毒素」が関与?

濱元誠栄院長こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
大腸がんの原因に関して新たな発表がありました。
毒素を作る腸内細菌、大腸がんの原因に 40歳未満は7割 大阪大
実は、似たような内容のブログを1年前に書いています。。。

「大腸がんの原因の一つは、コリバクテリウムと呼ばれる腸内細菌かもしれない」
そんな興味深い研究結果が、2026年8月10日、国際的な医学誌『Nature Genetics』に発表されました。
大阪大学や東京大学などの研究グループが日本人の大腸がんを詳しく調べたところ、約半数の大腸がんから、ある腸内細菌が作る毒素によってDNAが傷つけられた痕跡が見つかったというのです。
さらに、40歳未満で発症した大腸がんでは、その割合が約70%に達していました。
今回注目されたのが、「コリバクチン」という物質です。
コリバクチンとは?
私たちの腸の中には、非常に多くの細菌が暮らしています。
その中には大腸菌もいますが、大腸菌ならすべてが危険というわけではありません。
一部の特殊な大腸菌は「pks」と呼ばれる遺伝子群を持っていて、コリバクチンという毒素を作ることがあります。
このコリバクチンには、腸の細胞のDNAに直接ダメージを与える作用があります。DNA鎖間架橋やDNA二本鎖切断を引き起こし、その結果として突然変異が残ることが知られています。
イメージとしては、
腸内細菌
↓
コリバクチンを作る
↓
大腸の細胞のDNAを傷つける
↓
遺伝子変異が蓄積する
↓
大腸がん発症につながる
という流れです。
がんのDNAに「犯人の指紋」が残っていた
今回の研究の面白いところは、単に「大腸がん患者には、この大腸菌が多かった」というものではなく、大腸がん細胞の全ゲノム解析を行ったところです。
DNAが傷つけられると、その原因によって特徴的な変異パターンが残ります。例えば紫外線、タバコ、加齢などには、それぞれ特徴的なDNA変異のパターンがあります。
これを「変異シグネチャー」と呼びます。
いわば、「がん細胞のDNAに残された犯人の指紋」のようなものです。
コリバクチンについても、SBS88やID18という特徴的な変異シグネチャーが知られています。
日本人の大腸がんの約45%にコリバクチンの痕跡
研究グループは、日本人の大腸がん患者200例について全ゲノム解析を行いました。
その結果、特殊な高変異型のがんを除いた183例中82例、つまり44.8%で、コリバクチンに関連する変異シグネチャーが確認されました。
さらに重要なのは、単にDNAに痕跡が残っていただけではありません。
大腸がんの発生に重要な、APC、BRAF、TP53といった「ドライバー遺伝子」にも、コリバクチンによって生じたと考えられる変異が見つかりました。
*ドライバー遺伝子とは、正常な細胞をがん化させ、がん細胞の増殖や生存を直接引き起こす「原因となる遺伝子」のことです。
つまり、「たまたま大腸がん患者の腸にその菌がいた」というだけではなく、腸内細菌が作った毒素が、実際に発がんに関係する遺伝子を傷つけた可能性が高いというところが、今回の研究の大きなポイントです。
40歳未満の大腸がんでは約70%
さらに興味深い結果があります。
コリバクチンの痕跡は、年齢が若い患者さんほど多く認められました。
特に40歳未満で発症した大腸がんでは約70%にコリバクチン関連の変異シグネチャーが確認されました。また、1965年以降に生まれた世代でも、この変異の頻度が高くなっていました。
近年、世界的に「若年発症大腸がん」の増加が問題になっています。
今回の研究は、その原因の一部に幼少期からの腸内細菌との関係があるのではないかという新しい可能性を示しています。
今回の全ゲノム解析で40歳以下だった患者は10例と少数です。そのため、「若い人の大腸がんの7割は腸内細菌が原因」と現時点で断定することはできず、さらに大規模な研究での確認が必要です。
DNAの傷は10歳未満から始まっている可能性も
さらに驚くのが、コリバクチン関連の大腸がんでは、がんの発生初期に起こる遺伝子変異が、10歳未満という幼少期にすでに生じていた可能性が示されたことです。
これは、「40歳で突然、大腸がんが始まる」のではなく、子どもの頃に腸内細菌によってDNAに傷が入り、その後数十年かけてさまざまな変異が積み重なり、最終的に大腸がんになる
という可能性を示しています。
がんは何十年もの時間をかけて作られる病気であることを考えると、とても興味深い発見です。
コリバクチン産生菌と発がん
ただし、「便を調べてコリバクチン産生菌がいたら、大腸がんになる」と確定した訳ではありません。
実際、今回の研究でも、便中に存在するコリバクチン関連遺伝子の量と、がん細胞に残っていたコリバクチン由来の変異量には明確な相関が確認されませんでした。
これは当然とも考えられます。
40歳で発症した大腸がんに残っているDNAの傷が、10歳や20歳の頃に作られたものだとすれば、現在の腸内細菌が、当時の腸内環境とは違っている可能性があるからです。
したがって現時点では、市販の腸内フローラ(腸内細菌叢)検査などを受けることで、大腸がんの発症リスクを正確に予測できる段階ではありません。
研究グループも、コリバクチン産生菌の検出や除菌、便を利用したリスク評価については、今後開発が期待される方法として位置づけています。
大腸がんを予防できる時代が来る?
今回の研究で個人的に一番期待したいのはここです。
胃がんでは、
ピロリ菌→慢性胃炎→胃がん
という関係が明らかになり、現在ではピロリ菌を検査して除菌することが胃がん予防につながっています。
将来的に大腸がんでも、
コリバクチン産生菌を調べる
↓
リスクの高い人を見つける
↓
菌を除去する、あるいはコリバクチンを抑える
↓
大腸がんを予防する
という時代が来る可能性があります。
研究グループも、コリバクチン産生大腸菌の検出や除菌、新しい便検査によるリスク評価などへの応用を期待しています。
今できることは、やはり大腸がん検診
新しい研究を見ると、「腸内細菌をどうすればよいのか」に注目したくなります。
しかし、今の段階でもっとも大切なのは、これまで通り検診等で大腸がんを早期に見つけることです。
日本では40歳以上の男女に対して、年1回の便潜血検査による大腸がん検診が推奨されています。便潜血陽性の場合は、原則として大腸内視鏡による精密検査が行われます。
また、血便、便が細くなる、排便習慣が変わった、原因不明の貧血などがある場合には、年齢にかかわらず医療機関での評価が必要です。
今回の研究で大腸がんの考え方が変わるかもしれない
これまで大腸がんというと、
「肉を食べ過ぎたから」
「食物繊維が少なかったから」
「運動不足だったから」
といった生活習慣の話が中心になりがちでした。
もちろん生活習慣が重要であることに変わりはありません。
しかし今回の研究からは、そのさらに奥に、腸内細菌がDNAを直接傷つけるという発がん経路が存在する可能性が見えてきました。
しかも、その影響が幼少期から始まっている可能性まであります。
将来、
「大腸がんになってから治療する」
だけでなく、
「がんを作りやすい腸内細菌を見つけ、がんになる前に介入する」
という予防医学につながれば、大腸がん診療は大きく変わるかもしれません。
非常に今後が楽しみな研究だと思います。













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