【大腸がん】FOLFOXIRI+アービタックスで生存50か月超の効果とは 

濱元誠栄院長

こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。

ステージ4の大腸がんについて以前詳しく解説しました。

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そこで「大腸がんだからこの抗がん剤」という決め方ではなく、

  • RAS遺伝子変異があるか
  • BRAF遺伝子変異があるか
  • MSI-Hかどうか
  • 原発巣が右側か左側か

といった情報を見ながら治療を選ぶと解説しました。

少し復習になりますが、RAS/BRAF野生型で左側原発の大腸がんは、アービタックスなどの抗EGFR抗体が効きやすいタイプとして知られています。

今回、このタイプの転移性大腸がんに対して、

FOLFOXIRI+アービタックス

FOLFOXIRI+アバスチン

を比較したDEEPER試験の長期成績が発表されました。

*画像をクリックするとリンクが開きます

結果を見ると、アービタックス群では無増悪生存期間が有意に長く、全生存期間の中央値は50.2か月でした。

今回は、このDEEPER試験の結果と、そもそもなぜRAS/BRAF野生型の左側大腸がんに抗EGFR抗体が効きやすいのかを解説します。

*FOLFOXIRIは、FOLFOXやFOLFIRIよりも強力な治療です。そのため、ステージ4大腸がん全員に使うわけではありません。全身状態がよく、臓器機能が保たれていて、特に「最初の治療でできるだけ大きく腫瘍を縮めたい」という患者さんが主な対象になります。たとえば、肝転移が現時点では切除できなくても、十分に縮小すれば手術できる可能性がある場合などです。一方、高齢者や全身状態が低下している患者さんでは、副作用とのバランスからFOLFOXやFOLFIRIを選ぶことが一般的です。


目次

DEEPER試験とは?

DEEPER試験は、日本で行われた第Ⅱ相試験です。

対象となったのは、切除不能の進行・再発大腸がんで、RAS遺伝子が野生型(陰性)の患者さん。

治療は、

mFOLFOXIRI+アービタックス

mFOLFOXIRI+アバスチン

の2群に分けて比較されました。

FOLFOXIRIは、

  • 5-FU
  • ロイコボリン
  • オキサリプラチン
  • イリノテカン

を組み合わせた治療です。

大腸がんで使う化学療法の中でもかなり強力なレジメンです。

そこにEGFRを抑えるアービタックスを加えるのか、血管新生を抑えるアバスチンを加えるのか。

その違いを見た試験です。


「腫瘍縮小率」に差が出た

DEEPER試験でまず注目されたのが、腫瘍縮小率です。

評価されたのは、

Depth of Response(DpR:最大腫瘍縮小率)

です。

一般的な奏効率は「一定以上縮んだかどうか」を見ますが、DpRでは、

治療前と比べて、最大で何%まで腫瘍が小さくなったか

を見ます。

RAS野生型全体では、

FOLFOXIRI+アービタックス:57.3%

FOLFOXIRI+アバスチン:46.0%

でした。

つまり、アービタックスを組み合わせた方が、腫瘍をより深く縮小させていました。

この結果は、特に肝転移などを小さくして手術につなげたい場合などに重要視されます。


左側・RAS/BRAF野生型ではPFSが有意に延長

今回の長期解析で注目したいのは、

RAS野生型
BRAF野生型
左側原発

の患者さんです。

このグループでは、無増悪生存期間(PFS)の中央値が、

FOLFOXIRI+アービタックス 14.8か月

に対して、

FOLFOXIRI+アバスチン 11.9か月

でした。

病気が進行する、あるいは死亡するリスクは約29%低下しています。

この差は統計学的にも有意でした。

つまり、少なくともこの集団では、アービタックスを組み合わせた方が、病気を長く抑えられたということになります。


全生存期間は50.2か月

さらに全生存期間を見ると、

FOLFOXIRI+アービタックス 50.2か月

FOLFOXIRI+アバスチン 40.2か月

でした。

中央値で約10か月の差です。

ただし、全生存期間については、統計学的な有意差には届いていません。

そのため、

「アービタックスによって生存期間が有意に延長した」

と言うことはできません。

一方で、ステージ4大腸がんの一次治療でOS中央値が50か月を超えたというのは、かなりすごいことです。

特に、

RAS/BRAF野生型かつ左側原発

という患者さんを選んだときに、この治療の良さが見えてきた点は大事だと思います。


そもそも、なぜアービタックスが効くのか?

アービタックスは、

EGFR

というタンパク質を標的にした薬です。

EGFRは、がん細胞の表面にあります。

EGFRに刺激が入ると、細胞の中では、

EGFR

RAS

BRAF

MEK

ERK

という順番にシグナルが伝わり、細胞の増殖が促されます。

アービタックスは、いちばん上流にあるEGFRを抑えます。

そうすると、その先にある増殖シグナルが流れにくくなり、がん細胞の増殖を抑えることができます。


RAS変異があると、なぜ効かないのか?

ここが抗EGFR抗体を使ううえで一番分かりやすいところです。

RASに変異がある場合、RASが常にONの状態になります。

つまり、EGFRから命令が来なくても、

RASが勝手に増殖シグナルを流し続ける

状態です。

そうなると、上流のEGFRをアービタックスで止めても、下流ではシグナルが流れ続けます。

そのため、RAS変異型(陽性)の大腸がんでは抗EGFR抗体は基本的に効きません。

BRAFもRASより下流にある分子なので、BRAFに強い活性化変異がある場合も同じ考え方になります。

だから抗EGFR抗体を考えるときには、少なくとも

RAS野生型

であることが前提になります。

今回のDEEPER試験では、さらにBRAF野生型まで絞ることで、より抗EGFR抗体が効きやすい集団を見ています。


なぜ左側大腸がんの方が効きやすいのか?

もう一つ重要なのが、原発巣が右側か左側かです。

大腸は一つの臓器ですが、右側と左側ではかなり性質が違います。

右側大腸がんでは、

  • BRAF変異
  • MSI-H
  • CIMP
  • HER2以外の増殖経路

などが関係する腫瘍が比較的多く、EGFRだけを抑えても効きにくいタイプが含まれます。

一方、左側大腸がんでは、EGFRから始まる増殖シグナルへの依存度が比較的高い腫瘍が多いと考えられています。

こうした特徴が、左側大腸がんでアービタックスやベクティビックスが効きやすい理由の一つと考えられています。


「RAS野生型なら効く」ではない

ただ、RASが野生型なら必ず抗EGFR抗体が効く、というほど単純ではありません。

たとえば、

  • BRAF変異
  • HER2増幅
  • MET増幅
  • その他の耐性遺伝子変化

があると、EGFRを止めても別の経路から増殖シグナルが流れてしまいます。

そのため現在は、

RAS野生型

だけでなく、

BRAF
HER2
MSI/MMR

なども合わせて見ながら治療を決めることが多くなっています。

大腸がんの治療は、かなり細かく分けて考える時代です。


腫瘍縮小率の意味

ステージ4大腸がんでは、肝転移や肺転移が限局している場合、薬物療法で十分に縮小すれば、

「最初は切れなかったが、治療後に切除できる」

ということがあります。

いわゆるconversion surgery(コンバージョン手術)です。

今回のRAS/BRAF野生型・左側大腸がんでも、R0切除(完全切除)率は、

アービタックス群 31.4%

アバスチン群 22.8%

でした。

ここには統計学的有意差はありませんが、腫瘍をしっかり縮小させることが目的になる患者さんでは、抗EGFR抗体を最初から使う意味は大きいと思います。


では、FOLFOXIRI+アービタックスを全員に使えばよいのか?

FOLFOXIRIは強力な治療ですが、その分、副作用も増えます。

オキサリプラチンによる末梢神経障害、イリノテカンによる下痢、骨髄抑制などもあります。

さらにアービタックスを加えると、

  • 皮疹
  • 爪囲炎
  • 低マグネシウム血症

なども問題になります。

そのため、

RAS/BRAF野生型で左側だから、全員FOLFOXIRI+アービタックス

とはなりません。

年齢、体力、転移の広がり、どこまで縮小を狙う必要があるか、手術につながる可能性があるかなどを見て治療を決めることになります。


現時点ではPhase 2の結果

もう一つ、冷静に見ておきたい点があります。

DEEPER試験はPhase 2試験です。

今回の左側・RAS/BRAF野生型178例の解析も、あらかじめ主要評価項目として設定された比較ではなく、サブグループ解析です。

PFSには有意差が出ていますが、OSは有意差には届いていません。

したがって、

「FOLFOXIRI+アービタックスが新しい標準治療になった」

とまでは言えません。

現時点では、RAS野生型・左側大腸がんの一次治療では、

FOLFOXまたはFOLFIRI+抗EGFR抗体

も重要な標準治療です。

そこに、

さらに強力なFOLFOXIRI+抗EGFR抗体をどの患者さんに使うか

という選択肢が見えてきた、という段階だと思います。


まとめ

DEEPER試験の長期解析では、

RAS/BRAF野生型かつ左側原発の転移性大腸がん

に対して、

FOLFOXIRI+アービタックス

を使うことで、

無増悪生存期間は

14.8か月 vs 11.9か月

と有意に延長しました。

全生存期間も、

50.2か月 vs 40.2か月

とアービタックス群で長い結果でした。(有意差なし)

それでも、ステージ4大腸がんで50か月を超える生存期間が示されたというのは、十分注目してよい結果です。

今回の結果を見ても、大腸がんは、

「ステージ4だからこの治療」

と一括りにはできません。

RAS、BRAF、MSI、原発部位などによって、最初に選ぶ薬が変わります。

特に、

RAS/BRAF野生型・左側大腸がん

では、抗EGFR抗体をどう使うかが、その後の治療経過にも大きく関わってきます。

FOLFOXIRI+アービタックスは副作用も含めて誰にでも使える治療ではありませんが、腫瘍をしっかり縮めたい患者さんでは、今後さらに検討される治療の一つになりそうです。

濱元誠栄院長

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この記事を書いた人

1976年宮古島市生まれ。宮古島市立久松中学から鹿児島県のラ・サール高校に進学。鹿児島大学医学部を経て沖縄県立中部病院で研修医として勤務。杏林大学で外科の最先端医療を学んだのち再び沖縄県立中部病院、沖縄県立宮古病院、宮古徳洲会病院に外科医として勤務。2011年9月に上京しRDクリニックで再生医療に従事した後に、18年7月にがん遺伝子治療を専門とする銀座みやこクリニックを開院。

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