
【肺がん新薬】HER2遺伝子変異に新たな選択肢!セバベルチニブ(ヒアニュオ)が日本で承認

濱元誠栄院長こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
肺がんの治療が、また一つ大きく変わりそうです。
2026年8月24日、HER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺がんに対して、
セバベルチニブ(商品名:ヒアニュオ®)
が日本で承認されました。
セバベルチニブは、HER2を標的とする経口の分子標的薬です。
HER2陽性肺がんでは、これまで二次治療以降に分子標的薬を使用していましたが、今回は
「抗がん剤を使った後」ではなく、最初の治療=1次治療から使用できる
という点で肺がん治療を大きく変えると言えます。
先日、肺がんステージ4について話をしたばかりなのに、もう新治療が出てきました…変化がはや過ぎです。

肺がんにも「HER2遺伝子変異」がある
復習も兼ねて、まず今回の治療薬の特徴であるHER2について。
HER2という名前を聞くと、乳がんや胃がんが有名です。
しかし、肺がんの一部でもHER2に異常がみられます。
非小細胞肺がんの2~4%にHER2遺伝子変異が存在すると言われています。
ただし、乳がんでよく使う「HER2陽性」と、肺がんで今回問題になる「HER2遺伝子変異陽性」は、同じ意味ではありません。
- HER2陽性:主にHER2タンパクの発現や遺伝子増幅を見る
- HER2遺伝子変異陽性:ERBB2という遺伝子そのものに、がんを増殖させる変異がある
今回のセバベルチニブは、後者のHER2(ERBB2)遺伝子変異を持つ肺がんを標的にした薬です。
これまでのHER2遺伝子変異肺がんの治療
HER2遺伝子変異陽性の肺がんにも、すでに有効な薬は登場していました。
代表的なのが、
エンハーツ®(トラスツズマブ デルクステカン)
です。
エンハーツは抗体と抗がん剤を組み合わせたADC(抗体薬物複合体)で、2023年に日本でもHER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がんに承認されました。
ただし適応が、
「がん化学療法後に増悪した」患者
ということで、二次治療以降で使われます。
さらに2025年には、HER2を選択的に阻害する経口薬
ゾンゲルチニブ(ヘルネクシオス®)
も日本で承認されました。
こちらも非常に期待される薬ですが、二次治療以降での使用となっています。
セバベルチニブは「一次治療から使える」
今回のセバベルチニブの承認が注目される最大の理由がここです。
効能・効果は、
「HER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」
となっており、治療ラインの制限がありません。
したがって、
これまで抗がん剤治療を受けていない患者さんでも、一次治療から使用できます。
バイエルによると、日本ではHER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がんに対して、一次治療を含め治療ラインを問わず使用できる初めての分子標的薬となります。
これは、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子を持つ肺がんで、診断直後から分子標的薬を使用するのと似た方向に、HER2肺がんの治療も進み始めたと考えることができます。
どれくらい効くのか?
承認の根拠となったのが、国際共同第I/II相試験
SOHO-01試験
です。
2026年のASCOで報告された最新データでは、進行HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がんで、まだ全身治療を受けていない73人にセバベルチニブを投与しました。
結果は、
奏効率 75.3%
病勢コントロール率:89.0%
奏効期間中央値:12.2か月
無増悪生存期間(PFS)中央値:13.5か月
という結果でした。

特に一次治療で奏効率75%という数字は、かなり期待を持たせる結果だと思います。
すでに他治療を受けた患者さんにも効果
SOHO-01試験では、すでに二次治療以降の患者さんについても調べられています。
HER2を標的とする治療を受けていない既治療患者81人では、
奏効率 64%
無増悪生存期間中央値は、
8.3か月
でした。

セバベルチニブは、一次治療だけでなく二次治療でもかなり効果があり、幅広い場面で使える薬として承認されたことになります。
飲み薬(経口薬)であることも大きな特徴
セバベルチニブが日本で承認された用法は、
1回20mgを1日2回、食後に経口投与
です。
エンハーツは3週間ごとの点滴治療ですが、セバベルチニブは内服薬です。
患者さんにとって、治療の選択肢が増えるだけでなく、通院や投与方法という面でも大きな違いがあります。
副作用は「下痢」に注意
気になる副作用はどうでしょうか。
SOHO-01試験で特に多かったのが、下痢で、87.7%に下痢がみられました。(ただし、Grade 3の下痢は5.5%)
注意点
今回の承認の中心となったSOHO-01試験は、非常に良好な結果ではあるものの、第I/II相試験です。
つまり、セバベルチニブと従来の抗がん剤を直接比較した大規模な第III相試験で、
「セバベルチニブの方が生存期間を延ばした」
ところまで証明されたわけではありません。
現在、未治療HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がんを対象とした第III相試験
SOHO-02試験
が進行中です。
したがって今後、セバベルチニブを1次治療として使用した場合の長期的な治療成績がさらに明らかになってくると思います。
HER2肺がんは一気に治療選択肢が増えてきた
HER2遺伝子変異陽性肺がんは、数年前まで「遺伝子変異は分かっているけれど、良い標的薬がない」という状況でした。
それが、
エンハーツ
↓
ゾンゲルチニブ
↓
セバベルチニブ
と、ここ数年で急速に治療薬が増えてきました。
そして今回、セバベルチニブが1次治療から使えるようになったことで、HER2遺伝子変異は、肺がん治療を決めるうえでますます重要な遺伝子になったと言えます。
まとめ
2026年8月24日、セバベルチニブ(ヒアニュオ®)が、
HER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺がん
に対して日本で承認されました。
今回のポイントは、
HER2遺伝子変異陽性肺がんに対して、一次治療から使用できる分子標的薬が登場した
ことです。
SOHO-01試験では、未治療患者(一次治療)で奏効率75.3%、無増悪生存期間中央値13.5か月という有望な結果が報告されています。
一方で、現時点では第I/II相試験を中心としたデータであり、第III相SOHO-02試験の結果も待たないと、生存期間が延長するのかどうかまでは言えません。
それでもHER2遺伝子変異肺がんが、
「抗がん剤をしてからHER2治療を考える」
ところから、
「最初からHER2を狙う」
治療へ進み始めたことは、大きな変化です。
今後は「セバベルチニブ、ゾンゲルチニブ、エンハーツをどの順番で使うのがよいのか」という、新しい治療戦略が重要なテーマになってくると思います。













コメント