実は多い希少がんとは?問題点や解決法、ホットライン相談活用を解説

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濱元誠栄院長

こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。

今回のテーマは「実はこんなに多い希少がん!その問題点と解決方法」です。

「希少がんとはどんながん?」「希少がんの問題点」についてお話していきます。

目次

「希少がん」とは?

「希少がん」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?希少=まれながんという意味ですが、私が医師になった頃は、この言葉は存在しませんでした。

希少がんという言葉は2015年に生まれ、「人口10万人あたりの年間発生率が6例未満のもの」「数が少ないがゆえに診療・受療上の課題が他のがん種に比べて大きいもの」と定義されました。

この定義に従うと、なんと200種類近い悪性腫瘍が希少がんに分類されます。個々の希少がんは、いずれもがん全体の1%にも満たないまれな腫瘍です。しかし、希少がん全て合わせると全体の20%を占めるくらい多くなります。

ちなみに、がん検診が行われている胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮がんといった5大がんは、がん全体の約半数を占めます。

希少がんとはどんながんか。例えば、目や鼻、耳、心臓、血管、筋肉などにもがんはできます。これらの臓器にがんができるという話はほとんど聞いたことが無いと思います。聞いたことが無いがんは、だいたい希少がんだと思って間違いありません。

消化管では、咽頭がん、食道がん、胃がん、大腸がんなどはメジャーですが、小腸がんや歌手のKANさんがなったメッケル憩室がんなどは、同じ消化管のなかでも稀ながんです。

また、乳がんと一括りにされた中でも、アポクリンがん、髄様がん、腺様嚢胞がんといった特殊なタイプの乳がんも希少がんと呼ばれます。

小児はがん自体の発生率が低く、小児がなるがんは全て希少がんとなります。

希少がんの問題点とは

希少がんはその数の少なさゆえに、大きな問題があります。

①一般的ながんに比べて治療成績が悪い

海外からの報告によると、一般的ながんでは5年生存率が63.5%であるのに対して、希少がんの5年生存率は48.5%と低くなっていました。日本では希少がんの正確な数字が出ていませんが、同様の傾向があると言われています。

希少がんのすべてが治りにくい訳ではなく、慢性骨髄性白血病は5年生存率90%とかなり予後が良いです。また、膵臓神経内分泌腫瘍は5年生存率40%で、同じ膵臓にできる膵臓がんの5年生存率9%よりもはるかに予後が良いと言えます。

ただ、希少がんは患者数が少ないために治療経験のある医師が少ない、標準治療が確立されておらず治療ガイドラインもないなどの問題があり、希少がん全体でみると治療成績はどうしても低くなります。

さらに、患者数が少ないため薬剤の開発や臨床研究がなかなか進まないことも、治療成績が悪くなる理由です。

②正確な診断が難しい場合がある

がんと診断するためには病理検査が必須です。希少がんではそのまれさゆえに、病理医がこれまで見たことがない症例もあります。そうなると、診断が遅れたり、病理医によって診断が異なったりするなど、診断に難渋するという問題が起こることが少なくありません。

もし病理診断が間違っていると、適切な治療が受けられないというリスクがあります。

③医師が十分な診療経験を積むことができない

骨肉腫と言う骨のがんを例にとると、1年間に発症する患者数が200-300人となっています。病院数が全国で約8000施設あることを考えると、98%の病院では骨肉腫を診ることがありません。

骨肉腫の患者を大学病院やがんセンターに集めたとしても、1年間に新たに診察する人数は、1施設当たり1.8人という計算になります。

骨肉腫は手術治療が基本になりますが、その数だと手術を経験する医師数もかなり少なくなります。

骨肉腫を含めた肉腫の術後経過を調べた研究では、手術件数が多い病院ほど術後合併症の発生頻度や院内死亡率が低かったという報告があります。

ちなみに、毎年15万5千人が新たに診断される大腸がんでは、大学病院やがんセンターで1年間に約500件の手術が行われ、消化器外科医一人あたりの手術経験をかなり確保することができます。

診療する医療機関を絞って症例を集める(集約化する)ことで担当する医療者の経験値を上げ、治療の質を向上させようとする動きがあります。

集約化に関しては、どの程度集約する必要があるのか、どこに集約するのか、遠方の患者さんにどのように対応するのか、医師や医療者をいかに育成するのか、など難しい課題も多く存在していました。

現在では東北、関東、中部、近畿、九州に希少がんセンターが設置され、患者さんの集約化による治療成績の向上を目指した取り組みがなされています。

④治療薬の開発が進まない

希少がんは患者数が少なく、市場規模が小さいため積極的に開発に乗り出す製薬会社が少ないという現状があります。また、病気のモデルとなる動物を作成するのも難しく動物実験も進まないし、治験も症例数を集めるのに苦労しています。

一つの国だけでは治験が難しいため、国際共同治験と言って、各国で行った治験のデーターを集めることをしています。

そのような中、アメリカは2017年に大人用の治療薬を開発する際に小児用も併せて開発するよう義務付けました。その結果、アメリカでは小児の治験が増え、日本の約10倍もの治験が進んでいます。

またアメリカでは小児の希少がんの薬を開発すると、その製薬会社の別の薬の承認審査を短縮できる権利が得られ、他の製薬会社よりも早く販売することができるという制度もあり、開発を後押ししています。

日本にはその制度はありませんが、海外ですでに承認されている国内未承認薬を、製薬会社ではなく医師が中心となって治験を進める医師主導治験という制度があります。2023年にはオンライン治験という制度もできました。

現在、国立がんセンター中央病院が主体となって、希少がんに対する2つの臨床試験が行われています。この制度を利用すると治験の説明や薬の発送などは国立がんセンター中央病院がオンラインで行い、検査や副作用のフォローなどは地域の病院で行うため、遠方にいても国立がんセンター中央病院に通うことなく治験を受けることができます。

⑤患者さんが病気の情報を得にくい

希少がんをインターネットで検索しても、以前は十分な情報を得ることが難しかったです。その対策として国立がんセンター中央病院がホームページ上で希少がんについての情報や動画を公開するようになりました。

また、希少がん患者さんやそのご家族が相談できる希少がんホットラインも設置されました。

ここでは、①どの病院を受診すればよいか、②検査や治療について知りたい、③病理診断が難しいと言われたがどうすれば良いか、④セカンド・オピニオンはどうすれば良いか、⑤治験の情報を知りたいといった様々な疑問に対応しています。

また、希少がんホットラインでは、医師からも「初めて診る症例なので相談したい」「どんな医療機関に紹介すれば良いか分からない」と言った問い合わせがあるようです。

希少がんに対しては現在国を挙げて取り組んでいます。将来、希少がんだから治療が難しいということが無くなり、治療薬も増え、希少がんは「ただ数が少ないだけのがん」となるよう願っています。

濱元誠栄院長

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この記事を書いた人

1976年宮古島市生まれ。宮古島市立久松中学から鹿児島県のラ・サール高校に進学。鹿児島大学医学部を経て沖縄県立中部病院で研修医として勤務。杏林大学で外科の最先端医療を学んだのち再び沖縄県立中部病院、沖縄県立宮古病院、宮古徳洲会病院に外科医として勤務。2011年9月に上京しRDクリニックで再生医療に従事した後に、18年7月にがん遺伝子治療を専門とする銀座みやこクリニックを開院。

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