
【肺がん】TP53変異があるなら「タグリッソ+抗がん剤」で生存期間が約2倍に

濱元誠栄院長こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。
EGFR遺伝子変異陽性の肺がんでは、長年「タグリッソ(一般名:オシメルチニブ)」が治療の中心となってきました。
しかし、最近では選択肢が増え
①タグリッソのみ
②タグリッソ+化学療法
③ライブリバント+ラズクルーズ
(リブロファズ+ラズクルーズ)
と3つの選択肢があります。
今回の臨床試験は、①、②の比較です。
どのような症例で、①にするのか②の化学療法を加えるのかの、明確な判断基準はありません。
そんな中、2026年8月10日、医学雑誌「JAMA」に非常に興味深い第III相試験の結果が発表されました。
それがTOP試験です。
この研究で注目されたのが、
「TP53遺伝子変異」
です。
EGFRだけではなく「TP53」に注目
EGFR遺伝子変異陽性肺がんといっても、すべて同じ性質を持っているわけではありません。
EGFR以外にもさまざまな遺伝子変異を併せ持っており、その中でも重要なのがTP53です。
TP53変異はEGFR遺伝子変異陽性の進行肺がんの約半数で認められ、TP53変異があるとEGFR阻害薬が効きにくくなったり、早く耐性が出たりすることと関連すると考えられています。
つまり、
EGFR陽性+TP53変異陽性
=比較的治療抵抗性の高い肺がん
と考えることができます。
そこで今回、
「こうした治療抵抗性の高い患者さんなら、最初からタグリッソだけではなく、抗がん剤も加えた方がよいのでは?」
という疑問を検証したのがTOP試験です。
TOP試験とは?
TOP試験は、中国17施設で行われた第III相ランダム化比較試験です。
対象となったのは、未治療のステージ4または再発非扁平上皮非小細胞肺がんで、
EGFR感受性変異(Exon 19欠失またはL858R)
+
TP53遺伝子変異
を持つ294人です。
治療は、
タグリッソ+抗がん剤群
VS
タグリッソ単独群
に分けられました。
併用群では、タグリッソにカルボプラチン+ペメトレキセドを4コース併用し、その後はタグリッソ+ペメトレキセドによる維持療法が行われています。
結果はかなり大きな差に
結果はこちらです。
無増悪生存期間(PFS)
タグリッソ+抗がん剤 34.0か月
タグリッソ単独 15.6か月
その差が18.4か月でした。
これはかなり大きな差です。
2年間、病気が進行せずに治療を続けられていた割合も、
併用群 60.8%
単独群 26.7%
と、大きく異なりました。
がんが縮小する割合も高かった
奏効率も、
タグリッソ+抗がん剤:82.9%
タグリッソ単独:71.6%
でした。
さらに重要なのが、「効いている期間」です。
奏効期間中央値は、
32.7か月 vs 15.3か月
で、併用群では2倍以上長くなっています。
つまり、
がんを縮小させるだけでなく、その状態を長く維持できた
ということです。

生存期間も延びる可能性
全生存期間(OS)についても興味深い結果が出ています。
中間解析では、
タグリッソ+抗がん剤:48.4か月
タグリッソ単独:36.5か月
ででした。
ただし、ここは注意が必要でOSデータはまだ未成熟であり、筆者も最終的な結論を出す段階ではないとしています。
したがって、「生存期間が確実に約1年延びた」とまではまだ言えません。
現時点で最も確実に言えるのは、無増悪生存期間が大幅に延長したということです。
脳転移がある人にも効果
今回の患者さんの約49%には、治療開始時から脳転移がありました。
それでも併用療法によるPFS延長効果は、脳転移の有無を含め、事前に設定された各サブグループで一貫して認められました。
EGFR陽性肺がんでは脳転移が問題になることが少なくないため、この点も非常に重要です。
もちろん、副作用は増える
ここまで見ると、
「それなら全員、最初から抗がん剤を加えればいいのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、そう単純ではありません。
Grade 3以上の治療関連有害事象は、
併用群:62.4%
単独群:14.9%
でした。
特に併用群では、好中球減少、白血球減少、血小板減少、貧血などの血液毒性が明らかに増えています。
治療関連の重篤な有害事象も、
10.6% vs 1.4%
でした。
また、併用群では重度の血小板減少から肺出血を起こし、治療関連死と判断された患者さんも1人いました。
当然ですが、
治療効果が高い分、治療の負担も大きくなります。
QOLも治療開始直後は低下
QOLについても重要なデータがあります。
息苦しさ、咳、胸痛などの肺がんに関連した症状が悪化するまでの期間には、大きな違いはありませんでした。
一方で、全般的な健康状態は併用群の方が早く低下(=健康状態が悪化)し、特に抗がん剤を行う導入期で目立ちました。
つまり18か月以上のPFS延長という大きなメリットと引き換えに、特に治療開始直後の負担は確実に増えるという治療です。
この研究の本当の意味
私は、この研究で最も重要なのは、
「タグリッソ+抗がん剤がタグリッソ単独より強かった」
ということだけではないと思います。
これまでEGFR陽性肺がんでは、
「EGFR変異があるか?」
というところが治療選択の大きな分岐点でした。
しかし今後は、
EGFR陽性肺がんの中を、さらに遺伝子情報によって細かく分けて治療する
方向に進んでいく可能性があります。
その一つが、
TP53変異の有無
です。
特にTP53変異を持つ肺がんはタグリッソ単独では早期に耐性化しやすいため、最初から治療を強化するという考え方には今回、非常に強い根拠が加わりました。
では「TP53変異がなければタグリッソ単独」でよい?
ここは少し慎重に考える必要があります。
TOP試験に参加したのは、全員がTP53変異陽性の患者さんです。
つまりTOP試験だけでは、
「TP53変異がない人では、抗がん剤を加える必要がない」
ことまでは証明されていません。
別のMARIPOSA試験の解析では、TP53野生型だと、③ライブリバント+ラズクルーズによる上乗せ効果が明確ではなかったというデータもあります。
一方、EGFR陽性患者全体を対象としたFLAURA2試験では、タグリッソ+化学療法によるPFSおよびOSの改善がすでに示されています。
したがって現時点では、
TP53変異陽性なら併用療法を積極的に検討する根拠がかなり強くなった
と考えるのが適切でしょう。
反対に、
TP53野生型なら必ずタグリッソ単独でよい
とまで言い切るには、まだデータが足りません。
これからはEGFRだけ調べればよい時代ではない?
今回の研究を見ていると、肺がん治療における遺伝子検査の意味も変わってきたように感じます。
これまでは、
「EGFRが陽性だからタグリッソ」
という比較的シンプルな治療選択でした。
これからは、
EGFR陽性
↓
さらにTP53などの併存遺伝子変異を調べる
↓
再発リスク・治療抵抗性を予測する
↓
治療を強化する人、単剤治療を考える人を分ける
という、より細かな治療選択に進んでいくのかもしれません。
これは、いわば
「EGFR陽性肺がんの中でも個別化医療を行う」
ということです。
まとめ
2026年8月にJAMAで発表されたTOP試験では、EGFR+TP53変異陽性の進行非小細胞肺がんに対して、
タグリッソ+カルボプラチン+ペメトレキセド
を一次治療から行うことで、
無増悪生存期間が
15.6か月 → 34.0か月
と大幅に延長しました。
一方で、重い副作用や治療開始時のQOL低下は明らかに増えます。
だからこそ今回の研究は、
「強い治療を全員に行う」
という方向ではなく、
「強い治療が本当に必要な人を、遺伝子で選ぶ」
方向へ肺がん治療が進んでいることを示した研究だと思います。
今後、EGFRだけではなくTP53を含めた併存遺伝子変異が、一次治療を決める上でどこまで重要になってくるのか。
かなり注目したい研究です。













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