HER2陰性乳がんに新たな治療薬!

濱元誠栄院長

こんにちは、銀座みやこクリニック院長の濱元です。

ESMO(欧州臨床腫瘍学会)2026で、注目の演題が次々と発表されています。

その中の乳がん領域で、期待の新薬の発表がありました。

前回のブログで、HER2陽性乳がんで、2年後もがんが進行していない患者さんの割合が、約34%から約59%に増えたという新治療を紹介しました。

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今回紹介する新薬は、HER2陰性乳がん治療薬で、こちらは、二次治療以降で病気の進行または死亡のリスクが59%低下したというものです。

その薬は、イザロンタマブ ブレンギテカン(izalontamab brengitecan:Iza-Bren)。

ちょっと長くて覚えにくい名前ですが、同じHER2治療薬エンハーツなどの抗体薬物複合体(ADC)の仲間ではあるものの、これまでのADCとは異なる仕組みを持った新薬です。

目次

イザロンタマブ ブレンギテカンとは?

最近の乳がん治療では、「ADC(抗体薬物複合体)」と呼ばれる薬が次々に登場しています。

代表的なものが、エンハーツ、ダトロウェイ、トロデルビです。

ADCは、がん細胞の表面にある目印を認識する抗体に、強力な抗がん剤を結合させた薬です。

抗体ががん細胞に結合し、薬剤を細胞内へ届けることで、がん細胞を攻撃します。

今回登場したイザロンタマブ ブレンギテカンは、EGFRとHER3という2種類のタンパク質を標的にするADCです。

これまでのADCは、HER2やTROP2など、主に1種類のタンパクのみを標的を認識するように設計されていました。

一方、イザロンタマブ ブレンギテカンは、EGFRとHER3の両方を認識できる抗体に、トポイソメラーゼI阻害薬を結合させています。

2つの標的を利用することで、より幅広いがん細胞に薬剤を届けられる可能性があります。

PANKU-Breast01試験とは?

今回の研究も、中国で実施された第3相臨床試験です。

対象となったのは、ホルモン受容体陽性・HER2陰性の切除不能な局所進行乳がん、または転移性乳がんの患者さん383人です。

参加者には、以下の治療歴がありました。

  • 1ライン以上の内分泌療法
  • CDK4/6阻害薬による治療
  • 1~2ラインの化学療法
  • タキサン系抗がん剤による治療

これらの治療後に病気が進行した患者さんが対象となっています。

患者さんを2つのグループに分け、イザロンタマブ ブレンギテカンと、医師が選択した化学療法を比較しました。

化学療法には、エリブリン、カペシタビン、ゲムシタビン、ビノレルビンが使用されました。

病気が進行するまでの期間が約2倍に

無増悪生存期間(PFS)次のとおりでした。

評価項目イザロンタマブ ブレンギテカン化学療法
無増悪生存期間(中央値)8.2か月4.0か月
奏効率40.5%20.2%

無増悪生存期間は、従来の化学療法の4.0か月から8.2か月へと延長しました。

ハザード比は0.41。

つまり、観察期間全体を通じて、病気の進行または死亡のリスクが59%低下したことになります。

また、奏効率も化学療法の約20%に対して約41%でした。

すでに複数の治療を受けた患者さんを対象とした研究としては、かなり期待できる結果だと思います。

ただし、現時点では全生存期間(OS)のデータが十分に成熟しておらず、余命をどの程度延長できるかは今後の解析を待つ必要があります。

HER2が0でも効果を期待できる?

今回の研究でもう一つ注目したいのが、HER2の発現量です。

HER2陰性乳がんには、HER2が少しだけ発現している「HER2低発現」と、免疫染色でHER2が検出されない「IHC 0」があります。

エンハーツはHER2を標的とするため、HER2の発現量が治療選択に関係します。

一方、イザロンタマブ ブレンギテカンの標的はEGFRとHER3です。

今回の試験には、HER2 IHC 0の患者さんも約3分の1含まれていました。

HER2の発現状況ごとの解析でも、幅広い患者さんで治療効果が認められています。

これまでHER2の発現が低いことで治療選択肢が限られていた患者さんにとっても、今後期待できる薬となりそうです。

エンハーツとの比較で注目したいこと

エンハーツは、HER2低発現乳がん(において大きな治療効果を示し、乳がん治療を変えた薬の一つです。

DESTINY-Breast04試験では、ホルモン受容体陽性患者の無増悪生存期間、全生存期間ともに延長し、奏効率も52.6%と高い結果でした。

今回のイザロンタマブ ブレンギテカンには、HER2 IHC 0の超低発現の患者さんも含まれていることが特徴です。

HER2の発現状況によって使える薬が変わる現在の乳がん治療に、新しい選択肢が加わる可能性があります。

副作用はどうなる?

今回の研究では、エンハーツで高率に見られた間質性肺疾患が比較的少なかったことが報告されています。

イザロンタマブ ブレンギテカンによる間質性肺疾患は、190人中2人(1.1%)でした。

いずれもグレード1または2で、グレード3以上は認められませんでした。

エンハーツのDESTINY-Breast04試験では、薬剤関連の間質性肺疾患が12.1%、初回解析で致死的な症例が0.8%と報告されています。

間質性肺炎の発生率では、イザロンタマブ ブレンギテカンの方が結果は良好でした。

しかし、副作用全体をみると、今回の試験で、グレード3以上の治療関連有害事象は、イザロンタマブ ブレンギテカン群で85.3%、化学療法群で65.8%でした。

イザロンタマブ ブレンギテカン群で特に多くみられたのが血液に関する副作用です。

グレード3以上の副作用発現率
好中球減少53.7%
貧血49.5%
白血球減少48.4%
血小板減少46.3%

発熱性好中球減少症も7.9%に認められています。

こうした副作用に対して、薬剤の減量や休薬、輸血などの支持療法が行われました。

実際、約65%の患者さんで減量が必要になっています。

副作用による治療中止は1.6%と少なかったものの、治療関連死も2人報告されています。

間質性肺疾患の発生が少ないことは魅力ですが、骨髄抑制への対応が重要になる薬といえそうです。

今後の乳がん治療はどう変わる?

ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんでは、内分泌療法とベージニオやイブランスと言ったCDK4/6阻害薬が治療の中心となっています。

しかし、これらの治療が効かなくなり、さらに化学療法を受けた後は、治療選択肢が徐々に少なくなっていきます。

そんな状況で、新しいADCが登場したことは歓迎したいニュースです。

今回の研究では、すでに内分泌療法、CDK4/6阻害薬、化学療法を受けた患者さんに対して、明らかなPFSの改善が確認されました。

今後は、全生存期間への影響や、既存ADCとの使い分けが重要になります。

また、この試験は中国人患者を対象として実施されており、日本人を含む幅広い集団でのデータも必要です。

*2026年10月現在、イザロンタマブ ブレンギテカンは日本では乳がん治療薬として承認されていません。

まとめ

今回のPANKU-Breast01試験で、イザロンタマブ ブレンギテカンは、ホルモン受容体陽性・HER2陰性の進行・転移性乳がんに対して、従来の化学療法を上回る無増悪生存期間を示しました。

特に、HER2 IHC 0のHER2超低発現の患者さんも対象となっている点に注目です。

個人的には、間質性肺疾患の発現が少なかったことも興味深い結果だと感じています。

一方で、重度の骨髄抑制が高頻度に認められており、実際の診療では副作用の管理が大きな課題になりそうです。

現時点では全生存期間の結果を待つ必要がありますが、治療を重ねた乳がん患者さんにとって、新しい選択肢となることを期待したいと思います。


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この記事を書いた人

1976年宮古島市生まれ。宮古島市立久松中学から鹿児島県のラ・サール高校に進学。鹿児島大学医学部を経て沖縄県立中部病院で研修医として勤務。杏林大学で外科の最先端医療を学んだのち再び沖縄県立中部病院、沖縄県立宮古病院、宮古徳洲会病院に外科医として勤務。2011年9月に上京しRDクリニックで再生医療に従事した後に、18年7月にがん遺伝子治療を専門とする銀座みやこクリニックを開院。

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